約 3,277,197 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3512.html
『訓練』が終わり、訓練場を出て待機室に戻る一同。 その空気は緊迫を通り越し、まさに一触即発の冷戦状態である。 そして待機所には騒ぎを聞きつけたはやてたちが待っていた。 「まったく……初日からド派手にやらかしてくれたなぁ」 「………」 じろりとジルグを見やるハヤテ。 対照的にすました表情を崩さないジルグ。 「はやてちゃん、みんなの容態は?」 色々と言いたい事もあるだろうが、 まずは今一番確認したいであろう事をなのはが聞いてくる。 「ああ、3人の容態なら心配あらへんよ。 むしろ訓練当初にボッコボコにされた時より軽いくらいや」 ジルグに撃墜されたスバル、エリオ、キャロは医務室に運ばれた。 特に酷い怪我を負っているわけではなく、 念のため一日安静という報告を聞き、隊長陣の表情が多少緩む。 「---さて……話を始めよか。どうしてあんな事したんかな?」 今回は黙秘は許さない。 自部隊に配属した部下が起こした不祥事だ。 それでも黙秘するようなら…… 「シャーリー殿からデバイスの説明を受けている際 訓練場で訓練が行われていると聞いて面白そうだったので参加しました、以上」 拍子抜けするほどあっさり答えるジルグ。 この孤立無援の状態の中、 神様も裸足で逃げ出したくなるような戦力を誇る面々を前に まったく悪びれる様子もなくヌケヌケと言ってのけるジルグに ティアナなどは呆れを通り越してもはや感心してしまう。 「六課についたらまずうちの所に顔出すように知らせといたはずやけどな?」 「向かう途中シャーリー殿と会ったので、自分のデバイスへの興味に負けました」 「あ~……ごめんねー。はやてちゃんの所に行く途中だって知らなかったから」 シャーリーが詫びる。 だが実際のところ、ジルグははやての所へ向かっていたわけではなく。 入り口の案内掲示板を見て、始めからデバイスの調整室に向かって歩いていたのである。 はやての前にシャーリーと出会うのは当然だ。 当然シャーリーはそのことは知らない。 「話し聞くとジルグさんの向かっとった場所は部隊長室やないみたいやけど?」 「道に迷いました」 白々しいにも程がある台詞で即答するジルグ。 はやてはこめかみに浮いた血管を人差し指で押さえながら考える。 言ってる事はそれほどおかしい訳ではない。 それが本当に 『部隊長室に行く前に道に迷い、 偶然にもシャーリーと会って自身のデバイスの話に夢中になってしまい 隊員の訓練中と聞かされて興味深々で当初の目的を忘れて訓練場に向かい 思わず血が騒いで訓練に無断で参加してしまった』のであれば 確かに規律違反ではあるがそこまで青筋立てるほどの話ではない。 だがその人物は今や曰くつきどころではないジルグである。 しかしこの調子だといつまで立っても埒が明かず、糠に釘の状態が続くだけだろう。 「とりあえず”今日のところは”そういう事にしといたるわ。 それと今後は無断で他の隊員の訓練等に乱入しないこと! それはよーく肝に銘じといてや?」 「了解しました申し訳ありません」 聞き様によっては棒読みにも聞こえる声で、流れるようにジルグは答える。 (あかん……初日からこんな状態やとジルグさんの思う壺や) 深呼吸して当初の予定を思い出すはやて。 「まぁ……まずは『道にも迷った』事やし、 ジルグさんに六課内を案内せないかんのやけど……」 しかし直前に起こった事が事である。 味方撃ちの話を知っている隊長陣もそうだし 始めに頼む予定だったリインなどは特にジルグへの嫌悪感が 今回の件でさらに悪化したようで、無言でジルグを睨みつけている。 ザフィーラに頼み込んで行ってもらうか、 デバイス調整関連の作業ペースに大幅な支障をきたしてしまうが いっそのことシャーリーに……… そう考えていたはやてに、思いもよらぬ人物から声が上がった。 「あの、よろしければ私が案内をしようと思います」 「ティアナ!?」 なのはから驚きの声が上がる。 他の面々も一様に驚いた様子だ。 ティアナ達フォワード陣はジルグが陸士第108部隊で起こした事件を知らない。 だがつい先程、下手をすれば医務室送りにされかねない戦闘を一方的に仕掛けてきた相手を 自分から案内をしたいと言い出すなど普通に考えてありえない。 「いや、お前は訓練で疲れてるだろうし他の奴に……」 言いかけてヴィータが口を噤む、 その『他の奴』がいないから今の状況になっているのだから。 「今日の訓練はいつもよりは余裕を持って終わらせることが出来ましたし これから一緒に戦う『仲間』なのですから、それもかねて案内したいのですが」 ティアナの言い方にどこか引っかかりを感じるはやて。 そして数秒後、頭の中でポンと手を打つ。 つまりティアナは自分達と共闘することになるであろうこの危険人物の事を 自分自身の目で見極めたいのであろう。 「わかった、じゃあ頼むわ。ジルグさん、ティアナに建物内案内してもらってな」 「了解だ」 「は、はやてちゃん!?」 はやての言葉に驚いたなのはが何か言いかけたところで はやてはなのはに「ここは抑えて」という目線を送った。 仕方なく同意するなのは。 「……うん、わかった。でもティアナ、案内が終わったら身体のケアは忘れずにするんだよ?」 「了解です」 形式どおりに答え、ジルグと共に退出するティアナ。 そして残された隊長陣。 「いいの? はやてちゃん」 心配そうな表情で聞いてくるフェイトに 「多分大丈夫やろ。ティアナにはあの子なりの考えがあるみたいやったし。 あくまで勘やけど、こういう状況で騒ぎを起こすタイプには見えへんよ。 ジルグさんがロリコンとかやったら別の意味で危険やと思うけどそらないやろうし」 と事も無げに答えるはやて。 「どうしたヴィータ?ガラにもなく難しい顔をして」 先程からずいぶん静かなヴィータをの様子を不審がるシグナム。 「ん?ああいや……どうでもいい事ってーか 怒らないで聞いてくれよ?ただの印象だしさ」 珍しくいやに周りくどい言い方をするヴィータ。 「なんだ?」 「いや、あの二人…性格的に意外と似てるんじゃねーかって…… うわ! なのは! いきなりレイジングハートを突きつけるな!!」 ああ、となんとなく納得するはやて。 もちろんティアナは味方に突然攻撃を仕掛けるような人間ではない。 今はスバルという存在があるし フォワード陣の指揮役として、エリオやキャロともコミュニケーションをとろうと努力している。 だが彼女も元々他人とは一定の距離を置こうとするタイプだ。 さっきのやり取りで、ヴィータはそのあたりを感じたのだろう。 「ちょっと部屋の外でお話しようか?」 となのはに追い掛け回されれるヴィータを眺めながらはやては思った。 ---一方 ジルグを連れて部屋から出たティアナは部屋から少し離れたところでジルグに話しかけた。 「そういえば自己紹介がまだでしたね。 私は六課でスターズ分隊センターガードを務める ティアナ・ランスター二等陸士です、よろしくお願いします」 そう言ってジルグに向き合い敬礼する。 「本日付で六課に着任した。 まだ所属は聞いていないが、ジルグ二等陸士だ こちらこそよろしく、ティアナ殿」 ジルグもそれに答え、敬礼を返す。 「いえ、階級も同じでジルグさんのほうが年上ですし、ティアナで構いません」 「わかった、そうさせてもらう」 隊長陣の心配をよそに、二人はいたって普通に六課内をめぐっていた。 先の戦闘の件はお互いおくびにも出さない。 ティアナとしては最低限の説明で話を理解し、 必要以上の質問をせず、簡潔にまとめて質問してくれるジルグの相手は どちらかといえばなのはあたりを相手にするよりはむしろ気楽といえた。 ジルグとしても、いちいちギャアギャアわめかずに 必要最低限の事を簡潔に説明してくれるティアナは あの隊長達と比べればよほど理想的な案内役だ。 ヴィータの言葉通り、 本来ならお互いに不必要な干渉はしないし、 したくない性格というのは合っているのかもしれない。 「──で、ここがジルグさんの部屋になります」 「わかった」 元々はエリオとジルグが同部屋となる予定だった。 だが、ジルグと同部屋だとエリオが精神的に参ってしまうのではないかと考えた隊長陣は 結局部屋を分けることにしたのだった。 今日の騒動を見る限り、判断は正解といえよう。 最後にジルグの部屋に辿り着き、案内は終了した。 「以上です、私は明日も早朝訓練がありますが ジルグさんはどうしますか?」 「特に何も聞いていなかったからこの後聞きに行く。 あの様子だと合同の訓練は当分許可してもらえなさそうだが」 と可笑しそうに笑うジルグ。 「そうですか…」 「?」 初めて何かを言い淀むティアナに疑問の目を向けるジルグ。 「ジルグさんから見て、今日の戦闘における私たちの動きはどう映ったでしょうか?」 なるほど、今まで全く触れなかったとはいえ その話題に関してはさすがに言い淀むだろう。 だが自分を非難するのではなく敵の視点から見た感想を聞くとは… 「戦闘中も言ったが悪くはない。 数に勝るなら合流を優先させ、数的優位に立つ。 そしてそれを生かせる場所で戦いを挑むのは賢明な判断だ」 「でも私たちはあなたに完敗しました、何故ですか?」 「………」 しばし考え口を開くジルグ。 「味方を生かす戦術は考えていたが、あの状況で敵がどういう手段で対抗してくるか── を予測しなかったことが敗因の一つだ」 なるほど、とティアナは頷く。 敵を数的不利な状況下に追い詰める事に集中していたが 実際に追い込んだ場合、敵はどのような反撃に転じるのか。 退却するか? 抗戦してくるか? 前者ならそこで終了するか追撃戦にシフトする。 だが後者の場合、どの様な反撃をしてくるのかまでは今回考えなかった。 単純に数に任せて多方向から攻撃を仕掛けようとしただけだ。 これまでの訓練…ガジェット相手の訓練は基本的に敵の方が多く 単純な思考回路を持つガジェット相手ということもあり ただいかにして相手を減らしていくかを考えていた。 なのはが相手の場合、あらかじめ自分達が個々で劣る『挑む側』として戦術を組み立てていた。 だが、実際の戦いで相手の能力が不明のまま今日のような状況になった場合 今回のジルグもそうだが、ジルグどころかそれ以上の相手である可能性だってあるのだ。 その場合はどうすればいいか…… 思考の海に沈みそうになった頭を振る。 「一つ、という事は他にもあるのでしょうか?」 「特にはない。『今は』それが原因だろう」 つまりはまだ単純に力不足だった、ということだろうか。 あの時の戦闘を見る限り、それを否定する事はティアナには出来なかった ティアナはジルグに敬礼する。 「大変参考になりました、また何かあればよろしくお願いします」 「了解だ」 敬礼を返すジルグを背にし、 ティアナは訓練後のシャワーを忘れていたことを思い出し 「そういえばスバルは目を覚ましたのかしら」などと考えながら シャワールームに向かうのだった 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/aaarowa/pages/578.html
第141話 境界線上のフェイト 「嘘、だろ……?」 親友。 チェスター・バークライトにとって、クレス・アルベインとはそのようなカテゴリーに入る人物であった。 ダオスを倒す旅の仲間達の中でも、旅に出る以前からの仲であった。 そんな唯一無二の親友が、死んだ。 「おいおい、冗談キツイって。勘弁してくれよ」 この島でも無事に会えて。アーチェの死をきっかけに仲違いして。 それでも、お互いにまた会えると信じていた。 クレスがチェスターはきっと戻ってくると、マリアに喋っていたように。 チェスターが口に出しこそしないが、いつかまた一緒に戦えるだろうと考えていたように。 二人でルシファーに立ち向かう未来を夢見ていた。 「やめろよ、やめてくれよ……」 改めて、気づいてしまったのだ。 チェスターにとって、クレスは――。 「どうして、死んじまうんだよ……俺を、置いていくなよ……!」 ――かけがえのない親友だったという真実に。 「畜生、畜生っ、ちくしょおおおおおおおおおっ!」 どんなに悔やんでも、涙を流しても。 クレスはもう自分とは一緒に歩めないのだ。 馬鹿なことを話しながら笑顔を交わしたり。彼の放つダジャレを冷ややかな目で見ることも。 全部、消えてしまった。仲直りの機会は永遠に訪れない。 「返せよ……返せよっ、ルシファーッ! こんなはずじゃなかった全てを!」 ルシファーさえいなければ。 俺達の旅はこんな形で崩れ去ることもなかったんじゃないか。 「あああああああああああああああっっ!!!」 そう考えると、叫ぶしかなかった。 この行き場のない感情を胸の内に溜め込むには、少々重すぎた。 抗っても、手を伸ばしても。その手は大切な仲間には届かない。 目の前で死んでいく仲間達を見て、チェスターは何度も苦しんだのだから。 「クレスゥ……俺より先に逝くとかざけんなよ! 脱出は僕達に任せておけって言っておきながら下手こいてんじゃねぇ……!」 森の中に慟哭が響き渡る。 それは、自分が選択肢を間違えてしまった後悔と、謝る機会を失ってしまった悲しみに溢れていた。 「お前自身が死んだら、台無しだろうがっ!!! 自分を護らないで、他人護ってんじゃねぇよ! ああ、そうさ! それは俺にも言えるってか! だけど、そんなの知るかっ! 俺は、俺はなっ!!!」 涙を両の瞳からだくだくと流しながら、チェスターは空へと咆哮する。 こんな状況で叫ぶのは危険だ? 知ったことか、そんなこと。 叫びたいから叫ぶのだ。伝えたいから言葉にするのだ。 「それでも、生きていて欲しかったっ! 別れ際のこと、謝りたかったんだよぉっ、お前に!!!!」 届かない思いを風にのせて。 チェスターはこの世界に咆える。 否。吼えなければやりきれなかった。 「……クリフ、アルベル」 親友。それとライバル? フェイト・ラインゴッドにとって、クリフ・フィッターとアルベル・ノックスはそのようなカテゴリーに入る人物だった。 特に、クリフは自分の始まりとも呼べる人物だ。 忘れもしないあの出会い。 ノートンと一人対峙していたフェイトの前に颯爽と現れた金髪の大男。 「あの時は、助かったんだぞ。今回だってピンチの時にニヤついた笑みを浮かべてさ、来てくれるんだろうなって信じていたんだ」 その後の旅でも、クリフの助けは大きかった。 彼がいなければ自分は旅の途中で野垂れ死んでいただろう。 「何、死んでるんだよ……勝手に、死ぬなよっ! 僕よりも先に……どうしてっ!?」 時間が経つごとに死んでいく仲間達。 無論、フェイトも殺し合いを甘く見ているわけではない。 仲間が死ぬ可能性だって考慮している。 だが、感情は別だ。悲しくないわけがない、苦しくないわけがない。 「ルシ、ファー……! お前は、お前だけは……絶対に許さない!」 フェイトの中に滾る憎しみの炎が燃え上がる。 最初は皆生きていた。 長い旅路を終えて、それぞれの幸せを手に入れたはずだった。 それが、壊された。 他でもない、自分達が倒したはずのルシファーによって。 「返せよ……僕達が手に入れたはずだったこれからを! お前はどれだけ奪えば気が済むんだっ!!!」 他はいい、ルシファーだけはこの手で――殺す。 元の世界の仲間は二人しか生き残っていないけれど。 これ以上、失ってなるものか。 護る、この生命を糧にしてでも絶対に護り抜く。 しかし。 (ルシファーを倒しても、また復活するんじゃないのか?) フェイトの懸念はそこにあるのだ。 一度は倒したはずだったルシファーが蘇る。 死んだはずのヴォックスが参加者としてこの島に存在していた。 幾つもの不可解が重なりあって、解けないパズルとなってフェイト達を縛り付ける。 (もし、そうだとしたら全知全能としか言えないぞ……? 僕達は、本当にこの世界から抜け出せるのか? 少なくとも前みたいな方法は無理だ。 現に僕達は倒したルシファーによって“一度”は完全に負けている) ルシファーはやろうと思えば、最初の会場で全員を殺すことができるのだ。 それをやらない理由は知らないが、自分達は生殺与奪を完全に握られている。 つまり、この殺し合いの黒幕は人間の生死すらも操れる超常の力を持つということだ。 (真っ当な方法では倒せない……なら、どうすればいい?) 考える。何が正しくて、間違いか。 普段はこのような役目はマリアが担うはずだが、いないものを頼っても仕方がない。 幸いのことに、ソフィアは熟睡している。クリフ達の死亡を告げたことを想像すると、とてもではないが落ち着けるとは言えないだろう。 今のような落ち着いた時間こそ、考察を進めるべきだ。 (もう一度が二度と起こらないように) さて、どうする? どうやってこの殺し合いを終わらせる? 普通の勝利じゃ無理だ。絶対的な勝利が必要なのだ。 もう一度をもう二度と起こさない。 自分が考えつくあらゆる結末を想像して、破棄。 そして。その過程の末に浮かんだものは、本来なら考える可能性が微塵もないものだった。 (僕が、エターナルスフィアの支配者として……君臨する?) 絶大な力による恒久的な平和の創造。 つまり、フェイトがルシファーの代わりにエターナルスフィアの管理を行うということだった。 少なくとも、自分が支配者として君臨すれば、ソフィア達が死ぬまでの平和は確保されるのではないだろうか。 (だけど、そんなことが可能なのか? 前みたいに最後の悪あがきでもされるんじゃないか?) 前回はルシファーを倒しこそしたが、最後の最後に油断をしてしまい世界を滅ぼすトリガーを引かせてしまった。 (とりあえず、もう油断なんてしない。ルシファーは迅速に討つ。できるならば、奇襲みたいに相手が万全でない時を狙いたいけど……。 その為には、主催者側の内部を知らないことには動きようがないな) 今のフェイトには圧倒的に不足しているものがある。 それは情報である。 ルシファーが何の目的でこのような催しを開いたか。 そもそも、どうやって復活したか。 わからないことだらけの現状で下手に動くのは危険すぎる。 (そもそも、主催者側の内部を知ったとしても、だ。そこからどうする? 仲間を騙してでも向こうについて……隙を狙う? 僕の持つ力は有用だってことをルシファーは知っている。取り引きするには悪くはない条件だけど……上手くいく可能性は低い) 一度完全に敵対もしている身だ、自分が向こう側に取り入ることはかなりの難度であろう。 (……八方塞がり。何か事態が好転するキーが欲しいんだけどな) フェイトが思考に身を浸していたその時。 ドスドスと地面を踏みしめる音が身体を揺らす。 ブラムスだ。先程、帰りが遅いチェスターを迎えに行ったはずだが、もう戻ってきたのか。 振り返り、その背中には矢の回収から戻ってきたチェスターと。 「面白い奴を発見してな。すぐにでも行動を開始したかったのだが、ここで足止めだな。 どんな思惑があってその体を借りてるかは知らんが、話してもらうぞ。全て、な」 「いいえ話は歩きながらでもできるはずよ。時間は有限、ゆっくりしてる暇はないわ。 それと……久しぶり、とでも言えばいいのかしら。フェイト」 「ブレアさん……? というか、どうしたんですか、その体は! 裸ででで!」 「さっきの俺と同じ反応だな……無理もねーよなぁ」 レナスの身体を借りたブレア。 今この瞬間、フェイトは今まで足りなかった情報というカードを手にすることになる。 そして、そのカードをどのように使うのか。 裏切り? それとも仲間と共に戦い抜く? さあさ、いよいよ終盤戦。 ターニングポイントはもう顔を出している。 ――ここからが、正念場だ。 【D-05/朝】 【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:75%] [状態:左足火傷+打撲(少し無理をした為に悪化。歩くにも支障あり)。クロード・アシュトンに対する憎しみ] [装備:鉄パイプ-R1@SO3] [道具:ストライクアクスの欠片@TOP(?)、ソフィアのメモ、首輪×1、荷物一式] [行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える] [思考1:アルベル……] [思考2:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す] [思考3:確証が得られるまで推論は極力口に出さない] [思考4:主催側の内部に潜入するか、このままの方針で行くか……] [備考1:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)] [備考2:ソフィアの傷は全身に渡っています。応急手当にはしばらく時間を取られるかもしれません] 【チェスター・バークライト】[MP残量:30%] [状態:クロードに対する憎悪、肉体的・精神的疲労(中程度)、腹部に当身による痛み] [装備:光弓シルヴァン・ボウ(矢×???本)@VP、パラライチェック@SO2] [道具:レーザーウェポン@SO3、アーチェのホウキ@TOP、チサトのメモ、荷物一式] [行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)] [思考1:この次は必ずクロードを殺す] [思考2:アシュトンも、もう許せねえ] [思考3:使えそうな矢を拾い集める] [思考4:どっちに向かったらいいんだ?] [思考4:レザードを警戒] [備考1:チサトのメモにはまだ目を通してません] [備考2:クレスに対して感じていた蟠(わだかま)りは無くなりました] [備考3:手持ちの矢は無くなりましたが、何本かはこの場で回収出来るかもしれません] 【ソフィア・エスティード】[MP残量:0%] [状態:気絶中。全身に『レイ』による傷(応急手当中)。ドラゴンオーブを護れなかった事に対するショック。疲労大] [装備:クラップロッド、フェアリィリング@SO2、アクアリング@SO3、ミュリンの指輪のネックレス@VP2] [道具:魔剣グラム@VP、レザードのメモ、荷物一式] [行動方針:ルシファーを打倒。そのためにも仲間を集める] [思考1:クロード、アシュトンを倒す] [思考2:平瀬村へマリアを探しに行く] [思考3:マリアと合流後、鎌石村に向かいブラムス、レザードと合流。ただしレザードは警戒。ドラゴンオーブは返してほしい] [思考4:ブレアに会って、事の詳細を聞きたい] [備考1:ルーファスの遺言からドラゴンオーブが重要なものだと考えています] 【ブラムス】[MP残量:90%] [状態:キュアブラムスに華麗に変身。本人はこの上なく真剣にコスプレを敢行中] [装備:波平のヅラ@現実世界(何故か損傷一つ無い)、トライエンプレム@SOシリーズ、魔法少女コスチューム@沖木島(右肩付近の布が弾け飛んだ)] [道具:バブルローション入りイチジク浣腸(ちょっと中身が漏れた)@現実世界+SO2、和式の棺桶、袈裟(あちこちが焼け焦げている)、仏像の仮面@沖木島、荷物一式×2] [行動方針:自らの居城に帰る(成功率が高ければ手段は問わない)] [思考1:放送後、方針を決める] [思考2:敵対的な参加者は容赦なく殺す] [思考3:直射日光下での戦闘は出来れば避ける] [思考4:フレイ、レナスを倒した者と戦ってみたい(夜間限定)] [思考5:次の放送までにF-04にてチーム中年と合流] 【ブレア・ランドベルド@レナス・ヴァルキュリア】 [状態:本当なら死んでる] [装備:なし] [道具:なし] [行動方針:プロジェクトの妨害] [思考1:レナスの死体を介して、ゲートの存在を知らせる] [備考1:ドラゴンオーブ以外のプログラムにも何らかの仕掛けを施しています。現在二個発動中] [備考3:他にも参加者を脱出させる方法を考えている、もしくは用意している可能性があります] 【現在位置:D-05東部】 【残り15人+α】 第140話← 戻る →第142話 前へ キャラ追跡表 次へ 第136話 チェスター 第143話 第136話 ブラムス 第143話 第136話 フェイト 第143話 第136話 ソフィア 第143話 第140話 ブレア@レナス 第143話
https://w.atwiki.jp/sinsougou/pages/204.html
前ページ次ページなのはクロスの作品集 時間が無いので、事態が沈静化したところからお送りいたします。 ユーノ 「こほんっ、無限書庫の闇の諸関連の本を全て漁ってみたんだけど、残念ながら暴走を止める方法はわからなかったよ」 シグナム「すまない。結局お前の案に頼ることになりそうだ」 シン 「しかたないさ(最初からそれほど期待してなかったからな)」 もしも無限書庫を探したぐらいで方法が見つかったなら、未来の世界でリインフォースは死んではいなかったはずだ。 あんな身近な場所を(仕事においては)切れ者であるリンディ提督が見逃すはずは無い。シンにとっては、念のために確認しておくか、ぐらいの気構えだった。 ザフィーラ「ではシン、そろそろ具体的な方法を聞かせてもらおうか?」 シン 「ああ、用は自動防衛プログラムの再生を遅らせればいいんだろ。なら、話は簡単だ。闇の書の中に入って直接そいつを破壊すればいい」 シャマル「闇の書の中に、って・・・」 全員「「「「え、ええぇぇ~~~~~!!!!!」」」」」 シンの言い出した作戦は、なのは達の度肝を抜き、ヴォルケンリッターを驚愕させた。 自動防衛プログラムがこちら側に呼び出せないなら、自分達で闇の書の中へ乗り込もうというのだ。 一見乱暴な理論に聞こえるが、時間の無い現状ではこれが一番手っ取り早く判りやすい。 なのは「そ、そんなことできるの?」 シン 「闇の書の特性にリンカーコアを持つ生物を『収集』する機能があっただろ。あれを使って内部に入り込む」 ヴォルケンリッターはリンカーコアだけを抜き出すことで、対象を闇の書に直接『収集』することは無かったが、本来は闇の書内部に丸々取り込むことも可能である。前の戦いにおいても、戦闘中にフェイトが闇の書に取り込まれる事態が発生している。 ヴィータ「ちょっと待てよ、シン。そもそもお前にはリンカーコアがねーだろ!」 シン 「ああ、それなんだけどな。どうやら、デス子とユニゾンしたときだけ、リンカーコアが発生するらしいんだ」 これは少なからず、古代ベルカの時代から存在していたヴォルケンリッターに衝撃を与えた。 自分達の薄れかけた記憶をたどってみたが、そんな話は聞いたことが無い。それならば、デス子と名乗る摩訶不思議なユニゾンデバイスは一体なんなのか? シャマル「そんな・・・リンカーコアがない人間が魔法を使えるようになるなんて・・・。(古代ベルカでもそんな技術はなかったはずなのに・・・それ になぜリインフォースとの戦いのことを細部まで知っているの?彼は一体・・・?)」 シャマルはシンに悟られないように、リインフォースにそっと念話で連絡を取る。 シャマル(リインフォース、あなたは彼の素性について何か聞いてないの? ) リインⅠ(いや、話してくれた以上のことは何も・・・。私も今回の事件が終わったら、聞かせてもらおうと思っていた。だが、まだ止めておこ う) ザフィーラ(奴が何者かなど、今はたいした問題ではない。我々は主はやての信じた人間を信じるだけだ) 守護騎士達にはそのやり取りだけで十分だった。 シンが裏表の無い人間なのは、一緒に暮らしていた彼女達が一番よく知っている。 彼が自分から話してくれないのは、それなりの理由があるからだ。あえて言葉に出さなかったが、誰もが心の中で納得していた。 アルフ「というかデス子は本当にユニゾンデバイスだったんだ!?」 デス子「もちろんです! いったいなんだと思ってたんですか! この作戦で汚名返上です! これからは食ってばかりの駄目デバイスなんて言わせませんよ! (そして、ご褒美に翠屋のシュー・ア・ラ・クレムをおなかいっぱい・・・ぐへへっ)」 デス子は誰に言うわけでもなく自身の決意を叫びだしたかと思うと、自身の妄想に浸り始める。先程からしきりにヨダレをぬぐっているから、どうせまた食べ物関係だろう。ちなみに、駄目デバイスの自覚はあったのか、と全員が思ったのは言うまでもない。 シン 「まぁ、こいつはいろいろ規格外だからな。(元人型兵器だし、中に正体不明のロストロギアも入ってるし)」 フェイト「でも、『収集』ではいるってことは『夢の牢獄』に囚われることになるよ。シンお兄ちゃんを信じてないわけじゃないけど・・・あの場 所は・・・・」 それこそ一番の問題だった。取り込んだ生物を無力化するための『夢の牢獄』は、心の傷が深ければ深いほど取り込まれやすくなる。 おまけに今回はタイムリミット付き、なんとか呪縛から逃れても防衛システムが再生すれば本末転倒だ。 シン「心配要らないさ、フェイト。俺の場合は、デス子と分離すればリンカーコアも消滅するし、そうなれば異物として『夢の牢獄』から弾き出 されるはずだ。あとは闇の書の闇を発見して破壊すれば終了だろ」 シンは安心させるために頭を撫でるが、フェイトの不安は消えていないようだ。 確かに不安要素は多い。『夢の牢獄』についてはフェイトだけしか体験しなかったため、あまりに情報が少なすぎる。 しかし、フェイトに涙目で上目遣いをされては、リンカーコアが消滅しても、『夢の牢獄』から出られないかもしれないとはとても言いだせなかった。 シャマル「・・・え、まさか、シン一人だけで闇の書の中に入る気ですか!」 ヴィ-タ「冗談じゃねぇぞ! たった一人で自動防衛プログラムを破壊なんてできるわけねぇだろ! アルカンシェルまで持ち出してようやく倒 した化け物なんだぞ!!」 焦りだすヴィータたちを尻目に、シンは厳重にケースに保管された赤い結晶を取り出した。 素人ならば唯の大きな宝石に見えただろう。だが、ここにいる人間にはソレがどれだけ危険なものか本能で理解できた。 シン 「そこでクロノから借りた(貰った)こいつの出番だ。レリックという名の超高エネルギー結晶体で、こいつを使えば、いくら自動防衛プ ログラムでも粉々に吹き飛ばせる・・・・はずだ」 なのは「でも、そんなすごいものを闇の書の中で爆発させたらリインフォースさんが・・・」 リインⅠ「私なら大丈夫だ。もともと闇の書は強大な魔法を収集するために作られたもの。そのくらいの魔力なら問題ないだろう」 レリックをその程度扱いとは、つくづくとんでもないロストロギアだ。 まあ、街の大半を破壊しておいて、まだ、本格的な暴走が始まってない、などと言い出すのだから始末におえない。 最初に作った人間はおそらく相当の天才だったのだろう。 リインⅠ「それより、シン。聴きたい事があるんだが」 シン 「なんだよ、俺が話せることは大体話したと思うけど・・・」 リインⅠ「主はやてのリンカーコアが元に戻るまで、一年は掛かる。『収集』で内部に入ったとして、お前はどうやって闇の書から出る気 だ?」 なのは 「え、どういうこと!!」 シャマル「なのはちゃんとフェイトちゃんを足したくらいの莫大な魔力を持ってないと、闇の書からの脱出は不可能なのよ。 いえ、例えあったとしても、夜天の書の主であるはやてちゃんのサポートがないことには・・・・」 それこそが、シンが一人で向かうといった本当の理由だった。 確かに皆で行けば生存率、成功率は上がったのだろうが、自動防衛プログラムを倒したとしても、 闇の書から脱出が出来なければ唯の自殺行為にすぎない。 ちなみに、ユニゾンによって魔法が使えるようになっても、シンに生まれる魔力はせいぜいC-。(エリオにもボロ負けしたし・・・) そんな貧弱な魔力では、はやてのサポートなしで闇の書からの脱出は不可能だ。 ヴィータ「まさか、死ぬ気じゃねえだろうな、シン!! だとしたらお前を生かせるわけにはいかなねえぞ!!!」 リインⅠ「私をあれだけ引き止めておいて、今更自分が消えるなどと言い出してみろ。 私はこの身が消えることになっても、全力でお前を止める!」 リインフォースの言葉を皮切りに、シン以外の全員が騎士甲冑やバリアジャケットを装備し、デバイスをシンに向けた。 ヴィータなど、既にカートリッジリロードを済ませている。 シン「し、心配しなくても大丈夫だ。方法はちゃんとあるから、絶対に生きて帰ってくるって!」 ヴォルケンリッター達の殺気立った視線を、シンは目を逸らさずに(冷や汗をかきながら)真っ直ぐ見返した。 あえて言わないがすさまじく怖い。方法が無いなんて言ったら、その場で再起不能になりそうだ。 そう思わせるだけの殺気がシンに向けられていた。 シグナム「・・・・・嘘はついていないようだな、安心したぞ」 そう、脱出の手段はある。だが、それは時間跳躍システムによる十年後への再転移によってだ。 時間を見積もっても、あと一週間はかかるはずだったが、色々調べた結果、 ご都合主義的に、スカリエッティが緊急時の強制再転送システムを組み込んでくれていた。 未練がないとはいえないが、どの道いつかは戻らなければならないんだし、 リインフォースを救って未来に凱旋するのも悪くない。 それと、もう一つ話しておくことがあった。 シン「あ、リインフォース。少し話があるんだけど・・・」 リインⅠ「なんだ?」 シン 「・・・定時までに戻らないようなら、さっき言ってたとおり、俺ごと闇の書を破壊してくれてかまわない」 リインⅠ「・・・お断りだ。弱音を吐くとはお前らしくないぞ?」 シン「ごめん、だけどさすがに今回ばかりは・・・・」 リインⅠ「シン、私もこの計画が成功すると信じている。一緒に八神家に帰る約束、忘れていないだろうな?」 シン「・・・そうだったな。少し弱気になってたみたいだ。(ここまで来て、後戻りはできない。絶対に成功させないと・・・)」 負けられない戦いを前に、シンはあの穏やかだった八神家での生活を取り戻す決意と、自身の全てをかけて戦い抜く覚悟を決めた。 『収集』の準備が整い、装備の最終点検をするシン。 持っていくものはできるだけ少ないほうがいいのだが、相手は精鋭が十人がかりでようやくしとめた化け物だ。 なのは達は今持っている物の中から役に立ちそうなものを選び、シンに手渡した。 ユーノ「これは小型のデバイスみたいなもので、いくつか魔法が登録してあるから魔力をそそげばオートで発現するよ。 まあ、本当はロストロギアなんだけど僕にとってはお守りみたいなものだから。」 シン「でも、そんな大事なもの本当に貰っていいのか?」 なのは『あげるんじゃないよ、貸すんだけだよ。あとで絶対ユーノ君に返してね」 そう言われても返すのは十年後になるのだから、どちらかといえばユーノのほうが忘れていそうだ。 苦笑いを浮かべるシンを見て、なのは達は不思議そうに顔を見合わせた。 ヴォルケンリッターからは魔力カートリッジをあるだけ貰った。 シグナム「我々全員分のマガジンだ。少しは魔力の足しになればいいんだが・・・」 ヴィータ「唯でさえ、キケンな戦いなんだ。装備だけでもしっかり整えておかねぇとな」 シン 「気持ちはありがたいんだが、さすがにこんなには持ってけないだろ!」 シンの目の前には魔力マガジンが山のように積まれている。 冗談ではなく、どこからこんなに集めたのかってくらいにマガジンの山ができているのだ。 シャマル「風呂敷に包めば問題ありませんよ。ほら、こんなに簡単♪」 シン 「ど、どんだけ・・・。じゃなくて、機動力も下がるし6,7個で十分だよ」 懸命に断ってなんとか諦めてもらったが、三人ともあからさまに残念がっていた。 天然の恐ろしさを改めて実感したシンであった フェイト「あの場所は本当に人の心を引き付けるから、何があっても夢だってことを忘れないで必ず帰ってきてね! 確かに夢は心地いいかもしれないけど、終わってしまった過去は変えられないんだから・・・」 シン 「だからそんな心配そうな顔するなって。帰ってきたら、またどこかへ遊びにつれてってやるからな」 フェイト「・・・・・うん、今度は海に行きたい。もちろん二人っきりでね♪」 シン 「・・・・さすがにそれは勘弁してくれ」 誰のものかはわからないが、背中に突き刺さっている幾多の圧迫感が「私も連れてって」と恨みがましく告げていた。 リインⅠ「この前と違って戦いの場は闇の書の中だ。おそらく奴の戦闘力も大幅に上がっているはず…。 例えお前が失敗しても、ここにいる誰もお前を責めはしない」 ザフィーラ「・・・・どんなことがあっても、必ず生きてもどれよ。リインフォースとお前を同時に失えば、あの主でも発狂しかねん。 多少心は強くても、いまだ、九歳の女の子なのだ」 シン「わかってるさ、できるだけ早く帰ってくる」 前に資料として戦闘データを見せてもらったときがあったが、あの化け物は半端じゃない。 四つ重なった物理魔法混合結界に、おそらく主力魔法だろう広域殲滅魔法。そして、幾多の魔導師達を絶望させた、ほぼ無限の自己再生能力。 例えレリックを使うとしても、困難どころかほぼ不可能に近い成功率だ。 (試しに計算してみたが、0が小数点の後ろに6つ並んだ時点で電卓を投げ出した) だが、どんなに希望のない状況でも、リインフォースを救えなければきっと俺は俺が許せなくなる。 大切な人たちを守れずに、何度も何度も後悔と懺悔を繰り返してきた。 それも今日限りだ。俺はリインフォースを救って前に進んでみせる! シャマル「準備は完了しました。いつでも行けますよ」 デス子「行きましょうか、マスター(これで皆さんともお別れですね)」 シン「それじゃ行って来る。(さよならだ、十年後にまた会おうみんな。その時はリインフォースも一緒だ)」 シンとデス子は闇の書の光に消えていった。 どれだけ時間がかかっても、必ず帰ると心に誓って・・・。 君たちに最新情報を公開しよう。 大切な人達を失った運命の日から数年。 シンの前に再び選択のときが迫る! 逃れられない過去、失った絆、そして現われるマユ・・・。 自動防衛プログラムが復活したとき、はたしてリインフォースの願いは彼に届くのか? 次回、GUNDAM PARUMA DESTINY 『夢の牢獄』 君もこのスレで、エクストリームブラスト承認!」 さあ、嘘設定はどれでしょう。 目が覚めると俺は自分のベットに寝転んでいた。おかしい。ユニゾンしていた筈なのに、いつの間にか服も私服に変わっている。 ・・・・・・自分のベット? 身の毛がよだつような感覚に、俺は急いで起き上がると見覚えのある部屋を見回した。 (・・・俺の・・部屋? ・・・だってあの日、俺の家は燃え尽きて・・・・) ここが二階であることなどまるで考えずに、ベランダから外に飛び降りた。 落下の勢いを殺すために回転着地を決めて、服が汚れるのも気にせず上を向く。 庭(そこ)から見上げた光景は、俺にとって信じがたいものだった。(そんな・・・これが俺の望んだ世界・・・) 何年も忘れていた、忘れようとしていたアスカ家が、そこにあるのが当たり前であるかのように悠然と建っていた。 これは・・・本当に夢なのか? いつも家族で過ごしていたリビング、母さんが料理を作りマユがソレを手伝っていた台所、 俺や父さんがよく寝転んでいたソファー。家と共に燃え尽きてしまった懐かしい思い出が次々と俺の中に蘇ってきた。 全てがあの日のままだ。みんなが逝ってしまった、あの時の・・・。 分からなくなってきた。これが・・・夢? 本当は、こちらが現実だったんじゃないのか? オーブは焼かれないで、母さんと父さんとマユとみんな一緒に平和に暮らして アレは全部俺の妄想で・・・本当は戦争なんて最初から・・・。 マユ「お兄ちゃん? 起きたの?」 シン「えっ、マユ? 本当にマユなのか!」 ドアを開けてリビングに入ってきたのは間違いなく死んだはずの俺の妹、マユだった。 通りすがりの女子中学生を見て、何度考えただろう。生きていたら13歳、ちょうどあんな感じだったのかと・・・。 マユ「な~に、お兄ちゃんまだ寝ぼけてるの? もう私の入学式は終わっちゃったよ」 シン「入学・・式? ・・・そうか、もう中学生だったな。制服もよく似合ってるよ」 マユ「ふふっ、ありがと?」 ああ、そういえば、今日は入学式だったな。 ずいぶん背も伸びたな、もう母さんと並ぶくらいにまで成長してる。もっとも俺や父さんに比べれば、まだまだだけどな。 マユ「朝ごはんは食べたの? 買い物に行ったお父さんもお母さんもカンカンだったよ?」 シン「あ、ああ、そうなのか? 入学式に行けなくて悪かったな、マユ」 マユがここに居る。一緒に喋って、一緒に笑って、もう一度同じ時間を過ごせる。 そう考えると今までくだらないことを考えていた自分が馬鹿みたいに思えた。何を馬鹿なことを考えてたんだ。俺の居場所はここ以外にないだろ。子供じゃあるまいし、魔法なんてあるはずがない。あれは夢だったんだ。 ははは、馬鹿みたいだな、まったく、この年になってまるでゲームみたいな夢を・・・。 マユ「もう! 近所のステラお姉ちゃんとレイお兄ちゃんも来てくれたのに、お兄ちゃんだけは全然起きないんだもん」 シン「・・・・・あ」 その一言が、俺の中の何かを粉々に打ち砕いた。 俺が守れなかったせいで死んでいった二人が、オーブに居るはずがない。心に焼きついた凄惨な記憶が、俺に何もかも思い出させた。 マユ「さ、皆のところへ行こう? みんなお兄ちゃんを待ってるんだよ」 俺はマユが伸ばしてくれた手を、乱暴に振り払った。 そうでもしないと飲み込まれそうだった。何も考えず、何の不安もなく夢を見ていられた・・この懐かしい幸福に・・・。 マユ「お兄ちゃん?」 シン「・・・・・・やめよう、マユ。俺がマユに会っていいのは思い出の中だけなんだ」 マユ「・・・・・お兄ちゃん、どうしてそんな悲しいこと言うの?」 シン「マユ達と一緒にそっちにいけば、俺は俺を待ってる守りたい人達を守れなくなる!それに、俺はそっちに行っちゃいけない!行っていいは ずがないんだ!!」 今でも夢に見る、マユや父さん母さんが死んだときのことを。 ステラが殺されたときの、レイが死んだときの、悪夢のような光景が頭から離れない。 そして、多くの命を奪ってきた自責の念は、俺が幸福に浸ることを絶対に許さなかった。 シン「命令に従って、多くの人の未来や幸せを奪ってきた。殺して、殺して、俺みたいに家族を失った人間をたくさん増やしてきた。 そんな俺が、みんなと同じところへ行けるわけが無い!」 マユ「・・・・せ、戦争をしたならみんなそうだったはずだよ! お兄ちゃんだけが悪いわけじゃないよ!!!」 シン「俺は多くの人を不幸にしておきながら、何の罰も受けてない。それどころか、俺は今誰よりも幸せなんだよ! そんなことが、そんな不公平が許されていいはずが無いだろ!」 マユ「・・・・・そんな」 シン「俺は戻って守らなくちゃならないんだ、帰って救わなくちゃならないんだ。そうして、犯した罪を償わなくちゃならなくちゃいけないん だ!そうじゃないと・・・俺は、俺はぁぁ!」 罪の意識に心が折れそうになる。頭がぐちゃぐちゃになって、もう何も考えられなかった。救えなかった。守れなかった。助けられなかった。 俺がもっと強かったら・・・。誰にも負けないくらい強かったら、この夢と同じ世界に居られたはずだ。 だからもう負けられない! 失えない! そのためにはどんなことをしてでも・・・。 マユ「もうやめて! お兄ちゃん。もういい、もういいよ」 シン「そんなわけが・・・・」 マユは俺に抱きついて、錯乱した俺を必死に止めようとしてくれる。突き放そうとした俺の腕は、マユの涙を前にあっけなく力を失った。 ああ、また大切な人を泣かせてしまった。俺はいつまでこんなことを続ければいい。 もう耐え切れなかった。人のやさしさが苦しい。誰かの温もりすら寂しい。そんな矛盾に何年苦しんできた? あと何回失って、あと何回大事な人を泣かせれば、俺は安息を得られるんだ・・・。 シン「ごめん、マユ。僕は・・・マユを・・・皆を・・・うああぁあぁぁああぁ」 マユ「大丈夫、もう苦しまなくていいよ。私達はここで幸せに暮らしてる。だから、泣かないで・・・・やさしいお兄ちゃん」 俺はマユを抱きしめていた手を離すと、マユと一緒にソファーに座った。 子供のころは二人で座っても隙間だらけだったのに、今ではぎゅうぎゅう詰めなのが、時の流れを思い出させて・・・なぜだか少し寂しかった。 シン「・・・・俺はやっぱり馬鹿だ。マユやステラを守れなかったから、替わりにリインフォースを救えば許されるかもしれないって、心のどこかで 考えてた。俺は許して欲しかったんだ。戦争だから仕方がないといって殺した人たち、守るといいながら見殺しにした大切な人々、そし て、目の前で死んでいったマユや父さん達に・・・・」 マユ「誰もお兄ちゃんのことは恨んでない。だから安心して、もうお兄ちゃんが苦しむ必要なんかないんだよ。一緒に向こうへ行こう。そうすれ ばそんな苦しみすぐに忘れるよ」 シン「・・・・そうかもしれないな。・・・俺も・・疲れた・・・・」 それができたら、この幸福な世界で一生を過ごせたら、俺はきっと最高に幸せだろう。 もう戦って大切なものを失うこともない。誰もが幸せで誰も傷つかない。たとえ夢でも、それは俺が叶えたかった一番の望みだったはずだ。 でも、約束したから・・・・。 なのは「あげるんじゃないよ、貸すんだけだよ。あとで絶対ユーノ君に返してね」 フェイト「・・・・・うん、今度は海に行きたい。もちろん二人っきりでね♪」 はやて「家族は信じあうもんやで、シン兄」 リインⅠ「シン、私もこの計画が成功すると信じている。一緒に八神家に帰る約束を忘れたのか?」 シン 「わかってるさ、できるだけ早く帰ってくる」 自分の心の内を明かして何もかも吐き出したおかげで、俺はようやくわかった。俺が望んでいたのが本当は何だったのか。 そして、いま何をすべきなのか。 シン「・・・・俺は、もう行かないと・・・・」 マユ「そんな・・・いや!絶対に行かせない!」 俺を必死で止めようとするマユを見て、心がずきりと痛む。 それでも、俺を待ってくれている人達のためにも、ここに留まることはできない。 シン「マユ、わがままを言うんじゃない。・・・・時間がないんだ」 マユ「どうして!? 戻ったらきっとまた苦しむことになるよ。お兄ちゃんは私達と一緒にいたくないの? ここには何でも有るんだよ。お兄 ちゃんが守れなかった物だって、おにいちゃんが欲しかった物だって!」 シン「・・・・」 マユ「望めばなんでも手に入るんだよ。それなのにどうして・・・」 シン「俺はここに来ても構わない。むしろあれだけ酷いことをしたのに、みんなといられるなら喜んでここに残る。でも、あいつはまだここに来 るべきじゃないんだ。俺の勝手な理屈でリインフォースまで死なせるわけにはいかないだろ?」 マユ「・・・・自分のことより皆のことを先に考える性格、変わってないねお兄ちゃんは」 マユは掴んでいた俺の手を自分の両手でそっと包み込んだ。 マユ「・・・・・悔しいけど、お兄ちゃんにとって私達はもう過去なんだね」 シン「・・・そうだ、過去は消せない。だからこそ、唯の自己満足でもいいから、新しい仲間を守って、一緒に未来を作らなくちゃいけないんだ。 それが、俺の贖罪だから・・・」 マユ「少し寂しいけどしかたないよね、私達は死んじゃったんだから」 シン「ごめんな、マユ。これが俺の選んだ道なんだ。たとえ夢でも、もう一度話せて嬉しかった」 マユ「お兄ちゃん、私も嬉しかったよ。でも・・・」 シン「・・・そんな寂しそうな顔するなよ。そうだ、いい事考えたぞ!」 マユ「えっ?」 シン「何十年先かわからないけど、いつか俺の代わりに俺の仲間がそっちへ行くと思う。みんな優しいから、マユもきっと友達になれる。それな ら俺がいなくても寂しくないだろ。マユは強い子だから」 そこに俺はいちゃいけない。たとえ許されても、この血塗られた手でマユの頭は撫でられない。 この返り血を浴びた体じゃ、目立ちすぎてみんなと遊びに行くのも無理だ。 だけど、みんながマユと同じところへいけるなら、俺は・・・どんな敵とだって、戦ってやるさ。 シン「さあ、もういかないときっとみんなも心配してるぞ」 マユ「・・・うん、わかった。でも、何年かかってもいいから、お兄ちゃんもいつかきっと来てね。また、昔みたいに色んなことして遊ぼうよ。今 度はおにいちゃんの友達も一緒に♪」 シン「・・・・・・ああ、約束だマユ」 マユ「うん、約束だよお兄ちゃん」 その言葉を最後に、マユの体が輝き始めて、あっという間に消えていった。 輝きを放ちながら消えていくマユはとても綺麗で、とても可憐で、大げさかもしれないけど俺には天使のように思えた。 シン「何度も約束を破り続けてごめん。俺は最後まで悪いお兄ちゃんだったな。でも、俺は俺の全てを失ってでも、皆を守りとおすって決めたん だ。だから、さよなら、マユ。」 風に懐かしい塩のにおいが混ざっている。 シンが目を開けると、夕焼けに照らされた慰霊碑の前に立っていた。 色とりどりの花も今は茜色一色に染まっている。周りには誰もいない。波の音だけが静かに、そして延々とながれていた。 シン 「デス子、いるんだろ。いや、最初から居たはずだ」 デス子「・・・はい、あなたの傍でずっと見ていました」 たとえ服が変わっても、ユニゾンをとかない限り、俺達が離れることはない。 だったら、答えは一つだ。こいつはわざといない振りをしていた。 シン 「なんで黙って見ていた? たとえ見かけが変わっても、一声かければお前が居るとすぐに気付いたはずだ。 俺があのまま夢に飲まれたらどうするつもりだったんだ?」 デス子「マスターが夢の中に留まるなら、それでもいいと思っただけです。あれも一つの幸福の形ですから・・・」 永遠に夢を見続けることが幸福、か・・・そうかもしれないな。間違っている、「そんな幸福は偽者だ!」なんて言えるのは、 正義という言葉に踊らされた偽善者か、自分が幸せである事に気づいてない愚か者だけだ。 どん底に落ちた人間はそれがどんな幸福でも掴みたがる。そこには本物と偽者の境界線などありはしない。 俺がそうだったから、よくわかる。 シン 「一つだけ聴きたい事があるんだ。俺は・・・・マユが消えるとき笑っていられたか? ・・・それとも悲しい顔をしていたのか?」 デス子「・・・・終始・・・笑っていました。ご立派でした、マスター」 シン 「・・・・・・・・そうか、やっぱりお前は嘘が下手だな、デスティニー」 デス子「・・・私は、マスターの愛機ですから」 シン 「・・・情けない所を見せたな」 です子「いいんですよ(そんなところも含めて、私はマスターが大好きなんですから)」 シン 「・・・・ありがとう。そろそろ、行こうか。思ったより時間がかかったみたいだ」 住み慣れた家が崩壊していく。 俺の望んだ夢が消えていく。 残ったのは何もない闇と・・・目の前に立ち塞がる馬鹿でかい化け物だ。 シン「あれが、闇の書の闇。再生機能によって無限再生する化け物か。再生はほとんど終わってるな」 デス子「行きますよ、マスター。もう一度ユニゾンです!」 シン「感謝してるよ。たとえ夢だとしても、お前のおかげでもう一度マユと話せた。 その礼だ!今日この場所で、破壊しかできないお前の運命を俺が終わらせてやる!」 再び輝きを取り戻した赤い翼が深遠の闇に舞い上がる。 シンの魔法を使った初めての実戦が、今始まろうとしていた。 前ページ次ページなのはクロスの作品集
https://w.atwiki.jp/konnakotomo/pages/76.html
,イ _ __ ト、{ {,. ´ ` 、 > \____ ,.'/ // / i ヽ ヽ ヽー'´ // / / /// / ! | | ヽ ヽ i | / ! ! ! | | | | | | ヽ i | | | | トLLト、 | _」 /」 _! ! | | | i| イ´レ=ミ、! /j/_」/j/ヽ | | V || {{ Y´んハヽヽ__〃´んハ`Y、 | i | V ! 八 以り 厂Vヽ 以りj// | j/ V ハー―'´ ! `ー―彳 | | ! 八 U 八 ! ! . | \ _ / /j/ ヽ ト、_j 〕 、 ´ ,.イ | i / 「\V_>‐、><__」_\N / ___」_/ \ ヽ_ 、 >< /\ / ヽ-、 ! |∧ V´ ` .,_ / ヽ / _┐ | | | !、人_j `ヽ / \ V ヽ_j__,し'し'〈| | i ヽ / 冫7 / /´  ̄ \ \ | ∧ 〉 _/ 〈 ,.┬ 、_〉 ヽ! / ./ /{ ヽ\__/ ̄〉 ̄} }| | | /| ∧〉 / ヽ `ー=≦/ 〈ノ !j/ |// | ∧ // \ / | |/ | ヽ【NAME】ユーノ・スクライア(魔法少女リリカルなのは)【性別/学年/所属寮】男/9年生/ナチュラルエデン【一人称/喋り方】僕/理知的な口調【出身】ネバーランド共和国【信仰対象】ダンジョン【才能/年月/人生経験】天才/0/?【総経験値/基礎奥義数】??/?【アビリティ】・頭脳明晰 頭脳労働に補正。頭脳系の成長にやや補正。【魔法】空間魔法lv4 結界術lv4 錬金術lv4 土魔法lv4【技能】罠製作lv4 交渉lv2 芸術lv4 魔法持続lv4 使役lv4【通常奥義】4以上/?・平安京エイリアンの術 意識の外に罠を仕掛ける技術 罠1つを特定の場所に設置していたことにする。 平安京とはなにか、それは永遠の謎である。・芸術審美 芸術技能により物品の詳細な情報を手に入れることが出来る。・クリエイトダンジョン ダンジョンの製作を行える。すなわち自分好みの空間を作り上げられるということである。・封鎖結界 任意起動の結界で中に入ったものを閉じ込めるようになる特殊な結界。 封鎖結界時は中に対して強固になる反面外部に脆くなる。【特殊奥義】・ダンジョンメイカー ダンジョン製作およびダンジョン内の自身のすべての行動に大きな補正を与える。 彼こそはダンジョンの主である。【アーティファクト】20%・ダンジョンがいくつか・自律型ゴーレム(色々) 錬金術を用いて作られた自律型のゴーレムたち。種類は多種多様。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3782.html
マクロスなのは 第30話『アースラ』←この前の話 『マクロスなのは』第31話『聖剣』 EMP攻撃から数分後 電脳空間 フォールド波から電子の流れまで、全ての事象を解析・表示する電脳空間から事件を眺めていたグレイスは、先ほど災害現場に到着したらしいブレラの呼びかけに耳を傾ける。 「どうした?」 『周囲にフォールドネットの原始的生成を検知しました』 「ん?それはどういうことだ。ブレラ・スターン」 もちろん彼のセンサー情報はこちらでもリアルタイムで確認しているが、このように言語を介すのは、体を機械に置き換えてなお残る習慣であった。 こちらに問いにブレラは迷うことなくバジュラのEMP攻撃によって、置物と化していた車両のボンネットを剥がす。そしてパッと見回すと、電子の瞳でただ一点“バッテリー”を凝視する。 『・・・・・・この物質がフォールドクォーツへと変化するのを確認しました』 「バッテリーがフォールドクォーツに・・・・・・。ふふふ、了解したわ。命令変更、直ちにそのサンプルを採取し、帰還しなさい」 『ヤー』 短い応答と共に、彼は腕の単分子ブレードで車からバッテリーを分離させ、VF-27の待つ海岸への帰路についた。 5時間後 ミッドチルダ沖合20km 海上 「あれから5時間でまだこれかい?」 仮眠していたのか髪をボサボサにしたギャビロフは、損害報告モニターの表示に非難の声を上げる。 「面目ない・・・・・・」 はんだごて片手に電子基盤と格闘する部下が、小さく謝罪した。 「まったく・・・・・・それで、修理はどうなったんだい?」 「EMPでかき回された電子系は大方復旧できました。通信の方ですが、これを見る限りこっちは故障じゃないみたいです」 次元海賊「暁」所属、輸送艦「キリヤ」は次元空間からのワープアウト直後に謎のEMP攻撃を受けて航行不能に陥り、緊急浮上。そこで応急修理を行っていた。しかし浮上から5時間がたった今も、迎撃どころか管理局のレーダー波すら飛んでこないことを怪訝に思っていた。 「じゃあ、やっぱり〝アレ〟が動いちまったせいなのかい?」 「ええ。EMPで壊れた拍子に動いてしまったみたいなんで、今わかってるだけでもクラナガン全域をジャミングしてしまったみたいです。効果が予定通りなら、電磁波通信は明日までできないと思います」 「切り札のつもりだったけど、仕方ないね・・・・・・。それで、アマネからの連絡は?」 「はい、地上局の工作員経由の連絡によればなんですが・・・・・・」 「どうしたんだい?」 「それが・・・・・・合流ポイントに、この近くのネズミーランドを指定して来まして・・・・・・」 「あの子、遊びに来てるつもりなのかね・・・・・・」 海賊の首領たるギャビロフも少なくとも科学技術に関しては天才である部下の考えを読みかねて頭をかかえた。 事件翌日 フロンティア基地航空隊 格納庫 そこでは昨日の戦闘で傷ついた機体の補修作業が夜通し行われ、機体を失ったアルトも朝から他の機体の補修作業を手伝っていた。 (そろそろ時間か) 見上げた時計は0945時を示している。 昨日眠い頭にムチ入れつつ、ミシェルの言う通りに田所に連絡を入れていたアルトは、 「1000時までに技研に」 と言われていた。 そんな中、元VF-25専属整備士だったシュミットが、ぼこぼこになったVF-1Bの整備の傍ら聞いてきた。 「ところで昨日から休暇でどっかいっちまった諸橋が、隊長に聞きたいって言ってたことがあるんです」 「諸橋・・・・・・ああ、あの同性愛の新人か」 「え、ええ。まぁ、それでこいつらのエンジン周りのことなんですが、ここにいる連中にはわからない問題だったんで」 「・・・・・・俺にわかるのか?それ?」 「うーんどうでしょう。えっとコイツだと・・・・・・ここか。このブラックボックスのことなんですよ」 シュミットは整備していたVF-1のエンジンカバーをあけて、その箱を指差す。 「諸橋がVF-25にはこんなものついてないのに、他の機体には全部着いてる。どうして必要なんですか?って」 「ああ。そいつは確かメーカーが魔力炉のバックアップ回路が入ってるって触れ込みで、つけたんじゃなかったか?」 「はい。そこまでは我々でも分かるんですが、やっぱりそれ以上のことは分かりませんか?」 「・・・・・・そうだな。ここだけの話だが、VF-25なら魔力炉からの供給がなくても緊急時には質量兵器としての各種兵装が使えるから着けなかったって事ぐらいか」 「なるほど。やっぱりアレ、元質量兵器だったんですか」 「まぁな。黙ってたが、いい加減察していただろ?」 「ええ。主翼の付け根の銃口も観測機器って聞いていましたが、航法システムに全く干渉してこないし、カバー開けたら機器銘板に『25mm荷電粒子ビーム機銃』って書いてありましたから」 まぁ、管理局の封印を見てなんとなく事情はわかりましたけど。とシュミットは苦笑しながら付け足す。 管理局でのバルキリーの運用にはこうした明文化されていない察しを要求するところが多い。本来の技術開発をすっ飛ばして設計図から入ったり、自分のような次元漂流者の機体を改造して使ったりだから仕方ないのだが、いつかこのことがネックになる時が来そうだと漠然と思った。 「まぁ、そういうことだ。10時に技研に行く予定があるから、ついでに聞いてこようか?」 「そうしてもらえるとありがたいです。でも10時に技研に、ですか?もう50分過ぎてますけど」 「ん?バルキリーなら130キロぐらいひとっ飛び─────」 そこまで言って気づいた。 (俺、VF-25墜としちゃったじゃん!) 途端に冷たい汗が背を伝う。 (いろいろ準備しなきゃいけないし、格納庫の予備機は・・・・・・勝手には使えないよな。EXギアでは・・・・・・だめだ。なのは達ならともかく、俺には音速は出せない。遅刻すると伝えるしかないか・・・・・・) そこでシュミットがこちらの思考に気づいたのか、代替案を提案してきた。 「確か天城二尉が技研に出向になるそうで、出発が10時だったかと。今ならバルキリーの発進を早めればあるいは・・・・・・」 「それだぁ!サンキュー、シュミット!」 礼を言うのももどかしく、その場を離れて修理されたばかりのVF-1Bを点検する天城に通信をつないだ。 (*) 3分後 自室で準備を済まして戻ると、すでに天城のVF-1Bは滑走路に待機していた。 (飲み込みが速くて助かる) アルトは開いたキャノピーから後部座席に飛び込み、EXギアを固定した。 管理局の機体はホバリング機能などから来る汎用性から救助作業その他のために全ての機体に後部座席が存在し、必要ならいつでも使えた。 「アルト隊長、技研行きの特急便、発進OKっすよ!」 「よし、出してくれ。」 「了解!」 天城はスラストレバーを上げると、所々被弾孔の残る鋼鉄の鳥を飛翔させた。 (*) 4分後 特急便はすでに技研に併設された格納庫で翼を休めていた。 「時間ぴったりだな。結構結構」 通信機から聞こえた田所の声に、腕時計を確認する。 1000時ジャスト。 バルキリーでなければまず間に合わなかっただろう。 安堵のため息が自然に出て、ドヤ顔を見せる天城に礼を言うと、機体から飛び降りた。 (*) 久しぶりに見る技研は更に改装が進んでおり、もうひび割れたビルなど残っていなかった。 「ずいぶんきれいになったろ」 田所の問いに、アルトは骨組み状態の5階建てビルから目を離して同意の仕草をする。 「最初に来たときは技術棟なんて4つか5つしかなかったのにな」 「まぁな。今では大企業並の予算と設備だ。おかげで陸士部隊の装備のアップデートや新兵器の開発だって上手く行っている」 「新兵器?」 問い返すアルトに、田所は研究施設の一角を指差す。 全てが舗装された他の敷地とは違い、そこにはオフロードと呼べるほどの荒れ地─────いや、よく整備されたコースがあった。 そこを走るは、8輪で鋼鉄の身体を動かし、全方位旋回する箱から伸びる特徴的な長い〝筒〟を備えた車だった。 それは走りながら筒を横に向けると火を吹いた。 次の瞬間には標的だったものは吹き飛び、跡形もなくなった。 「今度は『ベアトリーチェ』か・・・・・・」 もう頭を抱えることしかできなかった。 『ベアトリーチェ』とはフロンティア船団の新・統合軍、首都防衛隊の装備していた装甲偵察車である。 その身に105mm速射砲を装備していたことから俗に戦車とも呼ばれ、バジュラの初襲来時にはアイランド1で迎撃に当たった。 しかし敢えなく撃破されており、以後は対バジュラ戦には投入されず、住民の誘導や治安維持に使われていた。 「ああ、前線からの要請だ。陸士部隊の移動手段の拡充が主な狙いだ。あの砲ならⅢ型など目じゃないし、安全性は従来のトラック輸送と比べて格段に向上する」 「しかし、ねぇ・・・・・・」 走行射撃しながら順調に標的を撃破していく装甲車は、分類上魔導兵器なのだろうが、質量兵器にしか見えなかった。 「すぐに慣れるさ」 人間は順応性が高い。最近バルキリーの運用に違和感がなくなってきたのがその例だ。 しかしこれらは果たして慣れて良いものなのか、アルトにはわからなった。 (*) それから5分ほど歩いて着いた場所はまるで地下鉄の入り口のような地下に続く道だった。 「ところで俺達はどこに向かってるんだ?」 堪えきれなくなったアルトが、田所に問うた。 「ん? なんだ、ミシェル君から聞いてないのか。まぁいい。とりあえず腰を抜かさない覚悟はしておけよ」 田所はまるで宝物を見せようとするガキ大将のような笑みを浮かべると、階段を降りていく。その先には果たして、地下に入るのか?というほど巨大な実験場があった。 「ほぅ、これはすごい・・・・・・」 田所の開けたドアの先は、どうやらエンジンの実験場のようだった。 自分達のいる管制所と、土台に据えられた丸裸の熱核タービンエンジンが存在する実験場とはガラスで隔離され、安全を確保している。 田所は何事かを研究員と話すと、何かのプラグを抜き、手渡してきた。 「なんだこりゃ?」 「とりあえず持っていてくれ」 答えるとともに彼は研究員に次々指示を出していく。 「―――――テストエンジンの反応炉、停止。―――――外部電源カット。―――――システムAからBへ移行」 研究員達は流れるような手つきでコントロールパネルを叩き、田所の指示を実行していく。 「反応炉、完全に停止。強制冷却機スタンバイ」 「全システム、モードBへ移行・・・・・・完了」 次々と準備を行って行く研究員達の傍ら、アルトの目にhPa(ヘクトパスカル)表示のデジタルメーターが映る。徐々に小さくなって行く数値に、どうやら実験空間を真空近くまで減圧している事が見て取れた。 「・・・・・・減圧完了。実験場内0気圧。理想的な完全真空です」 研究員の報告に田所の口が動いた。 「ファーストステージ開始!」 「了解、実験のファーストステージ開始します。試作MMリアクターへの魔力注入開始」 「おっと・・・・・・!」 持っていたプラグからコードを伝わって、自らの青白い魔力が流出していく。 どうやら実験に使う魔力は俺から流用しているらしい。 「俺は電池代わりかよ」 思わず悪態が口をついて出たが、誰も相手にしてくれなかった。 逆らうこともできたが、それほど多い量でもないので妨害は見送る。 「・・・・・・試作MMリアクターの作動状態は良好。実験をセカンドステージに移行します」 「テストエンジンへの流入魔力量、125M(マジック)/h。〝炎熱コンバーター〟、想定のパラメーター内で作動中!これなら行けます!」 「よし、点火!」 田所の号令一下、研究員はパネルの一際大きな赤いボタンを押した。 すると今まで沈黙していたエンジンに火が入る。 (なん・・・・・・だと・・・・・・) それはあり得ないことだった。 今あの中は宇宙空間も同然の真空なのだ。その場合、酸素と燃料から成る推進剤がなければ酸化還元反応は起こらず、火など燃えようはずがないからだ。 しかしそれは青白い炎を噴射口から吹き出していた。 「出力、4分の1でホールド。現在推力は15420kgf」 「タービンの回転運動による起電力で本体反応炉が再起動しました」 「推力を最大まで上げろ」 その指示に噴き上げる噴射炎が2~3倍に大きくなった。 「・・・・・・現在推力64500kgf!テスト段階の数値目標を達成しました!」 「MMリアクター内、魔力素消費率0.02%!従来型の100倍の省エネに成功!」 沸き立つ研究員達。ここまで来て初めてアルトはこの実験の目的を悟った。 ミッドチルダ製のバルキリーは推進剤を完全魔力化しており、推進剤のタンクの替わりにMMリアクター(小型魔力炉)を搭載している。ちなみに、今は亡きVF-25改も同じである。 しかし推進器は自分が追加装備として出すFAST/トルネードパックのように、魔力素の直接噴射により推進力を得ていたので、推進効率は劣悪であった。 そのためFAST/トルネードパックのような無茶な使い方をすると10分と持たない。 しかしこのように炎熱変換して炎として噴射すれば効率は桁違いだ。 簡単に言えば、今まで車を動かすのにガソリンをエンジンで燃やさず、高圧ホースでそれを後ろに噴射していたと言えば分かりやすいだろう。 だが炎熱変換はシグナムのような先天性のレアスキルの持ち主か、カートリッジ弾のように強制撃発させて制御不能の爆発を発生させるのが精一杯のはずだった。 そのため案の定というべきか、雲行きが怪しくなってきた。 研究員の操作するコントロールパネルに1つ、赤いランプが灯った。 「・・・ん?MMリアクターの出力に変動あり」 「なに?うーん、コンバーター側で調整してみよう」 「反応炉過熱中。強制冷却機、出力100%」 「─────ダメだ!変動が不規則過ぎて追いつけない!」 それが合図だったかのように一斉に赤いランプが灯った。 「反応炉、出力上昇中!安全域を超えます!」 「駆動系、ガタつき始めました!」 「強制冷却機、安全基準を突破!120%で稼動中!」 そして事態は最終局面を迎えた。 ガーッ、ガーッ、ガーッ 施設全体に響き渡るサイレン。既に研究員達が操作するコントロールパネルやホロディスプレイは真っ赤に染め上げられている。 「全冷却システム焼き切れました!反応炉の温度上昇止まりません!」 「減速剤注入、反応を抑制しろ!」 「了解。注入開始・・・ダメです!エンジン内部の減速剤、効果なし!」 「伝達系ダウン!反応炉、完全に暴走!」 「炉心のエネルギー転換隔壁、融解を始めました!」 「全電力で融解を阻止しろ!」 「・・・・・・効果なし!第1隔壁融解。第2隔壁を侵食し始めました!」 この段に至り田所はコントロールパネルに張り付くと、それを叩き割り、中のボタンを押し込んだ。 直後実験場内の外壁が開け放たれ、大量の水(減速剤)が流入した。 急流となった水流はエンジンを飲み込み、白い蒸気を吹き上げた。だが温度上昇の方が早かった。 「温度上昇止まりません!反応(核融合)爆発します!」 刹那、眩いばかりの光が周囲を飲み込んだ。 (死ぬなら空の上が良かった・・・・・・・) 思ったがもう遅い。アルトの意識と肉体は、突然出現した太陽の灼熱地獄によって分子レベルにまで還元された。 「ちっ・・・」 静寂の中、誰かの舌打ちが聞こえる。 「え?」 意識の上では既に昨日、今日とで三途の川を渡りきっていたアルトは再び現実世界へと引きずり下ろされた。 (あれ?熱くない) 一瞬で蒸発するはずであり視界は全天を白が覆っていたが、指先も足先も感覚が有り、地面にしっかり立っている感覚もあった。 田所の声が部屋に木霊する。 「コンピューター、プログラムをテスト前に戻せ」 ピッピロリッ 軽やかな電子音と共に周囲の光度が下がる。そして一瞬さっきの管制所程の無骨な壁の覆う狭い部屋となり、再び何事もなかったかのように管制所と実験場に戻った。 「ホ、ホログラムだったのか・・・・・・」 当に仮想現実(バーチャル)技術の極限とも言える完成度の高さだった。 確かにこれならプログラム次第でどんな実験でも行える。 また、地下空間にエンジンテストを行えるだけの設備を整えるのには年単位のスパン(期間)が必要になる。 となればこのホログラム施設を作るほうが遥かに現実的だった。 しかしこれほど違和感がないのは、おそらくこの施設はミッドチルダのバルキリー製作委任企業『三菱ボーイング社』辺りに本当にある施設なのだろう。 1人で納得している内に、田所がコントロールパネルに指を走らせる研究員に問う。 「原因はなんだ?」 「人間側の出力変動が予想値を遥かに上回っていて、炎熱変換機(コンバーター)が対応しきれなかったんです。これから改良に入りますから試作した本物のエンジンでの実践は─────」 「まだ無理か」 田所は肩を落とし、ガラスの向こう(とはいえ全てホログラム)のエンジンを仰ぎ見た。 「えっと・・・田所所長、こいつをもう置いていいか?」 いつの間にか、また握られていた魔力電源プラグを掲げる。 田所は我に返ると、それを受け取り元の場所に戻した。 「すまないな。ウチ(技研)にはアレ(擬似リンカーコア)を必要出力で起動できるほどの魔力資質保有者がいないんだ」 「なるほどな。・・・あ、そういえば所長が見せたかったのはこのエンジンなのか?」 しかし田所はこちらの問いに不敵な笑みを見せると首を振った。 「いや、これからが本番さ。・・・コンピューター、〝アーチ〟を」 すると入って来たドアと別の、現実世界への扉が現れた。 (*) 扉の先は行き止まりだった。 田所は扉の右に着いたボタン群から〝地下2階〟を押すと、扉が閉まり、体が軽くなった。 2人を乗せたエレベーターは下降していくが、大して深く降りぬ内にガラス張りのエレベーターの壁から急に視界が広がった。 その空間は地上の格納庫ほどの広さと高さを誇り、下界の研究員と整備員達が動き回る。彼らの中心には、優美なフォルムをした白鳥が鎮座していた。 (あれは!?) エレベーターが最下点に到達し、扉が開く。と同時にアルトは持っていた硬貨を投げる。 それは目測で10メートル、20メートルと離れるが、いつまでたってもホログラム室の見えない壁にはぶち当たらなかった。 どうやら自分の見ている光景はマジ物らしい。 「どうだ?本物だと信じるか?」 「あ、あぁ・・・・・・」 田所の声に生返事を返しながら、その機体を仰ぎ見る。 キャノピーの後ろに突き出した2枚のカナード翼。しかしそれはVF-11のそれと違い、水平でなく斜めに突き出している。 エンジンナセルはず太く、その力強さを印象づけるのに対して、機首は一振りの剣(つるぎ)のような鋭く美しい曲線を描いている。 そして何より、その翼は鳥がそれを広げたように、大きく前に突き出していた。 「VF-19・・・・・・」 しかしそれは自分の見たことがある新・統合軍制式採用機VF-19のF型又はS型とは違った。 前述のように2枚のカナード翼が存在し、エンジンナセル下にはベントラルフィンがある。 更に主翼も5割ほど大きくなっていた。 アルトはこの特徴を併せ持った機体を4機種ほど知っている。 1つはある惑星や特殊部隊で採用された超レアなVF-19『エクスカリバー』のP型とA型と呼ばれるモデル。 2つ目は20年前、マクロス7においてパイロット「熱気バサラ」の乗機として有名になったVF-19改『ファイヤーバルキリー』。 そして最後の1機は、AVF(アドバンス・ヴァリアブル・ファイター)計画(スーパーノヴァ計画)で試作された試作戦闘機YF-19だ。 この試作戦闘機はある胡散臭い神話を持つ事から有名だ。 惑星「エデン」から地球に単独フォールドし、地球絶対防衛圏を〝正面突破〟。当時迎撃してきた最新鋭試作無人戦闘機「ゴーストX9」を〝単独〟で撃破し、マクロスシティに鎮座するSDF-01(オリジナルマクロス)の対空砲火を掻い潜ってブリッジにタッチダウンした。というものだ。 アルトはどんな兵装を持ってしても地球絶対防衛圏を単独で正面突破するのは不可能だと思うし、当時慣性抑制システムOT『イナーシャ・ベクトルキャンセラー』はもう1機のYF-21にしか装備されていなかった。 そのためパイロットがどんなに優秀でも、当時のゴーストの機動に追随できたはずがない。 SDF-01も現在、モニュメントとしての要素が強く、対空砲火を打ち上げられたのかどうか・・・・・・ そのためこれは統合軍がVF-19の優秀さをアピールする目的で流されたデマだということが定説だった。 しかし実はこの歴史改変は統合軍の情報制御の成果だった。 この神話にはこの事件に大きく関わったシャロン・アップルの名は一度も出ないし、一緒に来たYF-21も伏せられている。 また当時現場にいた市民・軍属を問わずその時の記憶を失っている。となれば情報の制御は容易だった。 上記した2つの関係者を事実から抹消し、衛星に写っていたYF-19の武勇伝を誇大主張することで現実味を無くしたのだ。 しかし統合軍すら原因を正確に知らず、新・統合軍の機密事項を読める各船団の提督クラスや、それをハッキングして読んだグレイスらすらシャロンがなぜ暴走したのかは謎のままだ。 そのためこの事実を正確に知っているのは最近もエデンでYF-24『エボリューション』(VF-25の原型機)のテストパイロットをした、事件の当事者であるイサム・ダイソン予備役と民間人ミュン・ファン・ローンの2人だけだった。 「そう、VF-19〝P〟『エクスカリバー』だ」 田所が誇らしげに言った。 ―――――――――― 次回予告はここの一番下にあります。 できれば「読みましたよ」ってのでもいいので、ついでにコメントしていってください。とても励みになるのでよろしくお願いします。 また、何らかのミスや小さなアイデアもあったらお願いします。 ―――――――――― シレンヤ氏
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2708.html
「田舎マフィア程度がっ!管理局の魔導師なめんなよ!!」 「暴魂チューボ、いざ参るっ!!」 二人の武装局員、クラッドとキールはユーノを安全なところまで下がらせ、眼前の敵を迎え撃とうと していた。 魔法帝王リリカルネロス第4話 「守れ! 秘密基地」 まず、勢いよく啖呵を切ったクラッドは牽制用に散弾型の攻撃魔法をばらまこうとした。だがチューボの 踏み込みはクラッドの想像を超えて速かった。魔力を収束させて射撃魔法を撃つ暇など存在しない。 上段から振り下ろされるチューボの刀に身の危険を感じたクラッドはたまらずシールド魔法を発動する。 そして次の瞬間彼は己の目を疑った。円形の盾を作る標準的なシールド魔法『ラウンドシールド』、 その盾が半ばまで叩き割られていたのだ。何の魔力も込められていない刀を使って、 魔力による肉体強化を受けていない人間の手で、ただ物理的に。 「ウソだろオイ!?」 自分の中の常識を覆す光景に思わずクラッドは叫んだ。声にこそ出さない物のキールも驚愕している。 シールドを叩き割って目の前に突きつけられたチューボの太刀は、刃こぼれ一つしていなかった。 ミッドチルダにおける防御の概念として、バリア、フィールド、シールド、物理装甲の4つがあげられる。 ここから分かるように、魔法を介さない純粋に物理的な障壁も魔法に対する防御能力を持っている。 では逆に、純粋に物理的な攻撃は魔法を打ち破れるのだろうか。可能なのである。 頑丈さで知られるシールド魔法より更に強固な物質で作られた刀、それを振るうは改造処置と飽くなき 訓練で鍛え上げられた肉体、この2つが組み合わされば魔法でさえ斬れないわけがなかった。 魔法文明の恩恵にあずかる管理局の誰もが想像し得なかった現実がここにある。 ラウンドシールドはチューボに向けた杖型デバイスの先端から発生していた。もしシールドの発生位置が もっと体に近かったらそのままクラッドの胴体は袈裟懸けに叩き斬られていただろう。シールドさえも 切り裂く攻撃をバリアジャケットで防ぎきれるとは到底思えない。 「ちっ…!」 一撃で仕留めるつもりだったのかチューボは悔しげに舌打ちをする。 そしてラウンドシールドに深々と食い込んだ刀を持ち前の剛力で引き抜き、再び上段に構えた。 「サイドワインダー!!」 だがチューボがクラッドに斬りつける前に、キールの魔法が完成する。捕らえがたい蛇行軌道を 描く強力な射撃魔法がチューボの意識を刈り取らんとして迫って来た。 「ちょろちょろと目障りな!」 チューボはその魔法を事も無げに斬り払う。迎撃のやりづらい蛇行軌道の魔法を寸分の狂いもなく斬った 事も驚きだが、刀で斬られた魔法そのものが分解していくのはもっと驚くべき事だった。 またしても魔導師としての常識を疑う光景だったが、今度は呆気にとられずクラッドとキールは 今最も必要な行動をとることが出来た。 「ヤバかった……助かったよ相棒」 「礼は無事に帰ってからにしてください」 即ち、飛行魔法である。 チューボが射撃魔法を迎撃した瞬間を狙って、クラッドとキールは10メートル程浮き上がった。 接近戦を得手とする者がそう多くないミッドチルダ式の魔導師としては、そもそも会話できる距離まで 近づかれた状態から戦闘開始というのが大きな失敗である。故にこういった状況下で必要なのは出の速い 魔法で相手の動きを止めつつ距離を取ることだ。まして相手が接近戦に特化したタイプなら尚の事である。 「卑怯だぞ貴様ら、降りてこい!」 「冗談じゃねえ、このまま安全なところからガンガン撃たせてもらうぜ!」 その発言内容から相手が飛べないと判断したクラッドはやや調子に乗りつつ、宣言通りに射撃魔法を 発動させる。 「スプレッドショットォ!」 クラッドは魔力はそこそこにあるが精密な射撃が苦手なため、小さな魔力弾を大量にばらまき点ではなく 面で攻撃することを得意としていた。リンカーコアを持たない普通の人間なら数発で昏倒するような 魔弾がチューボに雨霰と降り注ぐ。 「どうだどうだどうだぁっ!」 「ぬ…!」 数え切れないほどのスプレッドショットがチューボの鎧にぶつかっていく。鎧越しに伝わる衝撃、 振動は機関銃で撃たれたのにも匹敵するだろう。つまり―――― 「効かんわ!」 「何ィ!?」 つまり、チューボには効果がなかった。その名が示す通り、ヨロイ軍団の軍団員は大半が強固な鎧を 身に纏っている。その鎧はネロス帝国の、ひいてはこの地球で最高の技術で作られた物だ。 それらの鎧は、管理局の常識では計れない恐るべき強度を持っている。 魔法の運用をはじめとする多くの技術で管理局に遥かに劣るネロス帝国だが、ロボット工学、 生体工学など管理局を上回る技術はいくつもある。2人の武装局員は今その一端を垣間見ているのだ。 「マジで化け物か!?」 「そのまま続けててください!」 スプレッドショットは効果が薄くとも足止めにはなっている、そう判断したキールは捕縛用のバインドを 仕掛ける。弾雨の中ゆっくりと歩を進めるチューボに、狙い澄ました一撃が放たれた。 「ボールパイソン!」 狙い違わず、キールオリジナルの捕縛魔法はチューボを捕らえる。 「何!?これは…」 キールの仕掛けた捕縛魔法ボールパイソンは、1本のバインドが大蛇のように相手の全身に巻き付き 締め上げるという物だ。魔力を込めれば捕らえた相手の骨をもへし折るというバインドとしては危険な 部類の魔法だが、今これを使うことに彼は躊躇がなかった。 「よっしゃ!こいつが決まればもうこっちのもんだな」 「どうでしょうかね…」 勝ったつもりでいるクラッドとは対照的に、キールの顔色は優れなかった。強力な魔法をかけ続けて いるためだけではない。不安が拭えなかったからだ。 (本当に効いているのか…?) 巻き付いたバインドはミシミシと骨の軋む音を立てて―――――――いなかった。 チューボの鎧は変形する素振りすら見せていない。キールの全魔力を込め、人間なら気絶していても おかしくないほどの力を加えているというのに。 「さて、被疑者も確保したしアースラに連絡して転送を……」 「クラッド、とどめをお願いします」 「へ?」 キールの発言にクラッドは思わず間の抜けた返答を返してしまった。彼は模擬戦でボールパイソンをかけ られた事があるため、その威力をよく知っている。出は遅いが脱出は不可能、それがこの魔法の恐ろしさ だと考えていた。それゆえに相棒のこの発言は理解し難い。 (慎重すぎるにも程があるだろ……) アースラに転送して更に厳重にバインドをかければ十分だろうと思っていたクラッドは、意識を奪って おくことにそこまでこだわらなくてもよいだろうと感じた。だが、キールの慎重さはしばしばこのコンビの 危機を救ってきたのも事実である。故にクラッドはこの状況に最適なとっておきを使うことにした。 「ブラストスピア!!」 クラッドの持つ杖型デバイスの先端から1メートルほどの赤い魔力刃が飛び出し、名前の通り槍の ような姿となる。ボールパイソンがキールの切り札なら、クラッドのとっておきはこの槍であった。 魔力の大半を一箇所に集中させたこの槍の威力はかなりのもので、A+ランク魔導師のシールドも 突破できるだろうと言われている。ただし術者自身がそれほど槍の扱いになれているわけではないので 動く敵になかなか当たらないという致命的な欠点があるのだ。故に彼はこの魔法を、仲間が完全に相手の 動きを封じたときしか使わないことにしている。 「食らいやがれ俺の必殺の一撃いいいっ!!」 叫びながら魔力を全身に漲らせ、自らの体を弾丸のように発射させてチューボに突っ込んでくるクラッド。 それを見て、今までおとなしくしていたチューボが僅かに身じろぎした。さすがに怖じ気づきやがったか、 とクラッドは嗜虐的な笑みを浮かべる。 強力なバインドで相手を縛り、大技でとどめを刺す。その戦術自体は間違いではなかった。 唯一点の致命的な誤算を除いては。 槍の穂先とチューボの距離が2メートルというところである。それまで無言だったチューボは裂帛の 気合いと共に全身の筋肉をフル稼働させた。 「ぬりゃあああああ!!!」 瞬間、チューボを縛るバインドが弾け飛ぶ。 「え?」 「な!?」 ボールパイソンを力ずくで破る人間がいるなど想像もしていなかったクラッド、鎧そのものは破壊 できなくとも動きを封じることは出来ると考えていたキール、2人の思考が一瞬停止する。 だが加速していたクラッドの体は止まらない。そしてチューボは突っ込んでくるクラッドを避けよう ともせずに刀を腰だめに構える。 「ちっくしょおおお!!」 激突の瞬間、チューボが迎撃に選んだのは突きであった。一方半ばヤケになりつつも、下手に進路を 変えて隙を作るよりはこのまま突撃した方がマシだと考えたクラッドは槍を構えてそのまま突っ込んで 行った。体を右側にねじり、突きを放つための力を溜めるチューボの左肩にリーチの差からクラッドの ブラストスピアがずぶりと突き刺さる。鎧を貫通した魔力ダメージがチューボの全身に 激痛を走らせた。必殺の一撃が相手に突き刺さり、勝利を確信するクラッド。 「どうだぁっ!」 (痛い、痛いな……) だがチューボの強靱な意志と肉体は魔力ダメージによる昏倒など許さなかった。 (しかし、ヨロイ軍団員に……) クラッドの槍が自分の体に突き刺さったこの瞬間こそ、彼が待ち望んだ瞬間なのだ。 中空に浮いていた敵が彼に間合いに飛び込んでくる、この瞬間こそが。 「痛みなど関係ないわ!!」 引き絞られた弓が放たれるように、強化された筋肉の力でもって渾身の突きが放たれた。 「カ…ハッ……!」 血飛沫が飛び散り、クラッドの口から苦悶に満ちた空気が漏れる。 チューボの刀は本来ダメージを防ぐはずのバリアジャケットを唯の布きれ同然に貫き、 クラッドの脇腹に致命的と言える一撃を穿っていた。傷口からあふれ出した血が2人の足元に 血だまりを作っていく。勝利の女神は、肉を斬らせて骨を断ったチューボに微笑んだのだ。 「あ、ああ……クラッドォォー!!」 その結果を見たキールは己の判断の愚かさを呪いながらクラッドの名を叫んだ。 ボールパイソンの威力を過信していなければ、突撃ではなく射撃を指示していれば、と 普段理性的に働く頭脳が様々な『もしこうしていれば』の結果ばかりを映し出し思考をかき乱す。 「さて、次は……どんな手品を見せてくれる…?」 刀を引き抜き、仮面の下で凄絶な笑みを浮かべながらチューボはキールの方に向き直った。 支えを失ったクラッドの体が血だまりの中にべちゃりと音を立てて崩れ落ちる。 「うあ、あああ……こんな、事が…」 恐慌状態になったキールは何事かを呟きながらその様子を見ているばかりであった。 アースラのように辺境の管理外世界を中心に活動している次元航行艦は、管理局と同等の戦力を持った 相手と戦闘になることはあまりない。戦いはいつも格下相手、幾重にも張られた防御魔法と数々の 医療魔法は局員を手厚く守ってくれている。そんな状況が長く続いているため、武装局員の中でも ギリギリの死線をくぐっている者はほとんどいない。 特に管理局員としての経験が短いクラッドやキールのような若手はその傾向が顕著で、敵の力量を 推し量ることも出来ず、また差し迫った死にパニックを起こすのである。 動く様子のないキールを見て好機と思い、歩き出そうとしたチューボの足を弱々しく掴む物があった。 「舐めんな……オレは…まだ……」 「ほう、まだそんな力があったか」 出血で意識を朦朧とさせながらも、クラッドがチューボの足にしがみつく。 (キー…ル……お前…逃げて……報…こ、く…) (クラッド……?クラッド!?何を馬鹿なことを、あなたも帰るんですよ!?) クラッドから届いた途切れ途切れの念話が、キールの頭に冷静さを呼び戻し、現状を再認識させる。 放っておけば相棒の死は確実、だが敵は強大すぎる。距離の空いている今なら自分だけなら逃げられる だろう。だが。普段冷静沈着なキールにしては珍しく分の悪い賭けを行おうとしていた。 目の前のこの敵を、潰す! 「あなたを見捨てはしません…よ……!?」 魔力を収束したその瞬間だった。視界の端を横切る銀色の輝き。一瞬遅れて右肩に感じる熱さと、 腕から力が抜けていく感触。デバイスを取り落としながらキールが見たそこには、ざくりと肉を 切り裂かれたような傷痕があった。 (あ…れ……?) 一体何が起こったのか。眼前の敵を見てキールは合点がいった。チューボは、兜に付いていた 三日月の鍬形と同じような形状の刃物を手に持っている。 (投げたのか…!) キールが混乱したり立ち直ったりしている暇を待ってやる道理などチューボにあるわけがなかった。 宙に浮いている敵が大きな隙を見せているなら彼がやることは決まっている。唯一の飛び道具での 攻撃だ。一見すると鍬形は1つしか無いように見えるが、そこには何枚もの三日月手裏剣が 格納されている。 (こっちの赤毛より防御が薄いな……) チューボは身軽な方ではない。むしろヨロイ軍団の中でも一、二を争う重量級だ。地面の上を駆ける だけならまだしも、何メートルもジャンプして浮いている敵を斬りに行く、というのは現実的ではない。 杖を取り落としたキールがもはや盾も満足に出せないというなら、手裏剣でその命を絶とうとするのは チューボにとって当然の選択と言えるだろう。今まで使わなかったのは数に限りがあることと、 シールドを警戒していたという理由からだ。 「でえいっ!!」 「ぐぅっ!」 さらに2発目の手裏剣を投げるチューボ。キールは必死で回避するも太股が切り裂かれていく。 悲鳴と共に血が噴き出し、痛みでキールの動きが更に悪くなる。 「こいつでとどめ……」 「チェーンバインド!!」 「うおぉっ!?」 しかしチューボが3発目を投げることは出来なかった。 戦力外と思われていた、伏兵が参戦したからだ。チューボの周辺に浮かぶ4つの魔法陣、緑色に輝く そこから飛び出した4本の魔法の鎖がチューボの四肢を絡め取る。 「キールさん!クラッドさんを早く!!」 「ユーノ君!?……分かりました!」 早々に逃げてどこかに隠れていたはずの金髪の少年が、不意を打って放った捕縛魔法は見事チューボを 捕らえていた。 (逃げていた小僧か、不覚!しかもこいつの魔法、これは…さっきの蛇みたいなやつより……強い!) 民間協力者ユーノ・スクライア、彼は魔法戦闘における花形と言える攻撃魔法には全く適正がなかった。 それこそ、多様な攻撃魔法を搭載したデバイス、レイジングハートが失望するほどに。だが攻撃偏重主義の 魔導師が軽視するサポート方面にこそ彼の天賦の才があったのだ。防御、回復、結界、調査……そして捕縛。 攻撃に特化したレイジングハートを手放した今こそ、少年は真価を発揮しようとしていたのである。 「ぐおおお…!千切れん…!!」 いかにチューボが力を入れようとも鎖は千切れる素振りを見せなかった。それどころか、ばきり、ばきりと 不気味な音を立てながら鎖に巻き付かれた部分が変形を始めている。 (馬鹿な!俺の鎧にダメージを!?) 驚愕するチューボを後目に、倒れ伏すクラッドの元に辿り着いたキールは応急処置用の回復魔法を 発動させた。どこかでデバイスを落としていたが拾いに行く間も惜しかった。右腕と左足の痛みと 出血も忘れてひたすらに回復魔法に力を注ぐ。クラッドは自分よりもはるかに重傷なのだから。 その様子を見ながら、何故いつまでたっても助けが来ないのかと怒りを感じたユーノはアースラに 念話を送りつけた。 『エイミィさん、聞こえますか!アースラ、応答してください!もしもし!?』 『どうしたのユーノ君。何か動きがあった?』 『転送の準備を早く!!重傷者二名!クラッドさんが特にヤバいんです!』 『……えええっ!?何でそんなことに!?ていうかそっちでも戦闘!?』 会話しながらユーノは頭痛を感じていた。クラッドさんとキールさんは戦闘状態になったのに 報告もしていなかったのか、と。 (僕がさっさと通信しとけばよかった……) 現場では局員の指示に従うこと、というリンディのお達しを守ったのが徒となってしまった。 エイミィがそっちでも、と言っているのが気になったが、死人が出そうな今追求することではない。 実は同時刻、クロノ・ハラオウンもネロス帝国と交戦しており、アースラのクルーはそちらで出現した 敵の解析、転送先の算出に尽力していたのだ。もちろんユーノ達がいるこのエリアにもサーチャーは 配備されていたのだが、この時運悪く別の地点を映していたのである。クラッドとキールのどちらかが ネロス帝国と接触したことを報告していればこうまで事態が悪化することはなかったので、この点に 関しては完全に彼ら2人の手落ちと言えるだろう。相手を舐めてかかっていたこと、舐めていた相手が 想像を遥かに超えて強く通信どころでなくなったことが災いしたのである。 『時間がないわエイミィ、直ちに回収を!』 『了解!ユーノ君、あとちょっとだけそいつ捕まえといて!』 『分かりました』 これでどうにか、そう思ったユーノだったが事態は尚も彼の思惑に反した方向に動いていく。 身動きがとれずもはや万策尽きたかに見えるチューボは森の奥にわずかに視線を向けると、 自信ありげに言葉を紡いだ。 「ふん。愚かだな、小僧」 そのセリフに、ユーノは自分の魔法に縛られているチューボを見た。威圧的なフォルムの甲冑に鉄の仮面。 ユーノには見えなかったが、その仮面の下でチューボは笑っていた。自分の苦境などどうということも ないとばかりに嘲笑っていたのだ。 「あのまま隠れていれば死なずに済んだものを」 ダンッ―――― 「うわぁっ!?」 ユーノがその意味を問う間もなく、火薬の爆発する音が響いた。同時にユーノの視界を塞ぐ何か。 離れていたキールにはその光景がよく見えた。炸裂音と共に森の中から撃ち出されたのは投網。 強化繊維で編まれた捕縛用ネットである。そして間髪入れずに飛び出してくる人影。高いカモ フラージュ性能を持つ森林迷彩を施された装甲の持ち主が、肉厚のサバイバルナイフを片手に 網の中でもがく少年に襲いかかっていった。 ナイフは一切の容赦なくネットに突き刺さり、貫いた。そのまま2人はもつれあいながら地面に落下する。 ヨロイ軍団爆闘士ロビンケン、それが彼の名だった。森林迷彩とヘルメット、ガスマスクのような 仮面はどこか特殊部隊を思わせる。トラップの名手で、地形を生かした様々なトラップで敵を 追い込む様は密林の狩人と呼べるだろう。生真面目な性格で下らない娯楽に興味はなく、チューボと 同様に暇なときには鍛錬を欠かさず行っていた。 チューボが仮面の下で笑ったのは、訓練中に奇妙な音を聞きつけ近くまで様子を探りに来ていた ロビンケンの存在に気が付いていたからだ。 「そんな、ユーノ君まで………ヒィッ!!?」 チェーンバインドが消滅し自由の身となったチューボがキールを見下ろしていた。 思わず悲鳴を上げ防御魔法を使おうとするも、間に合わない。 「まったく手間をかけさせてくれる」 サクリ、と軽い音がする。 ゴミを片づけるような気安さでチューボはキールの体に刀を突き立て、 彼は相棒であるクラッド共々、仲良く血の海の中に倒れた。 「助かったぞロビンケン。…………どうした?」 礼を言うチューボだったが、がさごそとネットを探る ロビンケンの不審な動きに疑問を持つ。答えはすぐにロビンケンが教えてくれた。 「いない…」 「何?」 「あの小僧がいないんだ!やつめ、どこに消えた!?」 ロビンケンの言葉通り、網の中は空っぽだった。確実に仕留めたはずのユーノが綺麗サッパリ消えて いたためロビンケンは狼狽を隠せない。 「俺のネットはあの小僧を確実に捕らえたはずだ!だがナイフを突き立てたときにはもうどこにも いなかった、一体何がどうなっている!?」 「落ち着けロビンケン、あの小僧は魔法使いだ。何かオレ達の知らない技を使ったんだろう……ん?」 ふと、小さな黄色っぽいものがチューボの目に映った。ロビンケンの足元、ネットの端から顔を出した それはきょろきょろとあたりを探る内に、チューボと視線をハッキリ合わせてしまう。 顔しか出してないがイタチの仲間だろうか。チューボと目が合ってしまったイタチは石になったかの ように動かなくなる。 (………イタチ?) チューボの脳内に閃くものがあった。ブルチェックが持ち込んだ生物、魔法の存在、その生物を ゲート6から外に捨てに行ったブルチェック、帝王の危惧、魔法を使う敵、全てが今一つの線で繋がる。 「そいつだあああぁぁぁぁぁ!!!」 「キュウウウウ!!!」 チューボの叫びに呼応するかのように、イタチもまた叫びながら駆け出す。 「そのイタチだ、そいつを捕まえろロビンケン!いや、殺せ!!」 「了解した!」 ちょろちょろと逃げ回るユーノ。行われているのは捕まったら命はない死の鬼ごっこだ。 もはや魔法を使うことすら忘れて命がけで逃げ回るユーノの動きは、ここに来て鋭さを増す。 チューボとロビンケンが刀やナイフを振り回し、その命を絶とうとするもとにかく逃げ回って 捕まらない。そしてチューボとロビンケンがフェレットに変身したユーノに気を取られたこの時、 管理局側の撤退のシナリオは完成に近づいていた。 「バインド……!」 血だまりの中でキールが小さく呟くとともに、2人のヨロイ軍団員にバインドが巻き付く。 「何だこれは!?」 「貴様まだ生きていたか!」 瀕死の人間がデバイス抜きで放ったその捕縛魔法に大した威力はなく、彼らの筋力からすれば足止めに しかならないのは明白だ。だが今は、その足止めが出来ればそれで十分だった。 『ユーノ君、急いで!』 「はい!」 エイミィからの念話がユーノに最後の一滴まで力を振り絞らせる。 倒れ伏すキールとクラッドの元へ、早く、一刻も早く! 『所定位置に全員揃いました!』 『回収!』 『了解、回収します!』 一瞬の閃光の後、そこに2人と1匹の姿はなく残っていたのは血の海だけだった。 「消えた!?あいつら、瞬間移動を行ったのか?あれほどの傷で!」 「おのれっ!ここまで追いつめておきながら取り逃がしたなどと、帝王になんとお詫びをすれば いいのだぁぁぁ!!!」 戦いの終わった山中に、ロビンケンの驚愕の声とチューボの叫びが響き渡る。その声は、近隣の 野鳥や獣が恐れを成すほどであった。 「救護班、急いで!」 リンディの命令であらかじめ待機していたアースラの医療スタッフは、回収した2人の局員に 救命処置を行っていた。彼ら二人はまさに一分一秒を争うほど危険な状態だった。 「輸血、急げ!」 「脈拍が下がっています!」 クラッドとキールが医務室に運ばれていく様子を見ながらユーノは自分を責めていた。最初から 二人と協力していればこんなことにはならなかったかもしれない。網で捕らえられたときに驚いて チェーンバインドを解除しなければ、少なくともキールが致命傷を負うことはなかったはずだ。 (僕がもっとちゃんとやっていれば……) ユーノ・スクライアは責任感が強い。時に病的なほどのそれは、彼の育った環境に原因がある。親が いないユーノは部族皆の子として育てられた。その環境は決して不幸な物ではなかったが、幼いユーノ の心には常に不安が付きまとっていた。 『もし自分がいらない子供なら捨てられるのかもしれない』 スクライア一族の者が聞けば激怒するかもしれないことだが、ユーノは本気でそう思っていた。故に 彼はいつでも『よい子』であろうとした。自分のことは自分でやり、他人の助けとなれる様々な魔法を 覚え、遺跡発掘について必死で学んだ。その働きぶりは素晴らしく、大人達は彼を褒め、ついには 若干9歳にして発掘現場を一つ任されるほどであった。 ここで彼らにとって不幸なことが4つある。1つ目は、幼いユーノの練習用にと任せたごく小さな 発掘現場からジュエルシードという一級品のロストロギアが出土してしまったこと。2つ目は、 発掘されたそれが運搬途中で事故に遭い流出してしまったこと。そして3つ目は、ユーノがその 責任感からジュエルシードの回収に、スクライア一族秘蔵のデバイスであるレイジングハートを 持って一人で飛び出してしまったこと。最後に最も不幸なことは、ジュエルシードが流れ着いた 世界が地球であったことだ。多数の生物、人間が存在する世界でジュエルシードは容易にその力を 発揮し、恐るべき怪物を生みだして攻撃能力に乏しいユーノの命を奪いかけた。もはや独力での 解決は不可能だろうと判断したユーノは管理局に助けを求めたが、今度は地球に存在する恐るべき 組織、ネロス帝国によって二人の武装局員が瀕死の重傷を負わされた。 (全部僕のせいだ……僕がちゃんとやらなきゃいけなかったのに……) 前述の通り強い責任感の持ち主であるユーノは、クラッドとキールが死にかけているのは全て自分に 責任があると考えていた。あの時こうできていれば、という考えがいくつも頭をよぎり、最終的には 自分がジュエルシードを見つけてしまったばかりにこんな事になったのだ、という考えに行き着いて しまい、少年は自分を責め続けていた。 「ユーノ君、あなたの方はどう?怪我は?」 「僕は怪我なんてしてません、クラッドさんとキールさんをお願いします」 「何言っているの!あなたも危なかったんでしょ?さあ早く診せて…」 「僕はいいんです!!」 そういったわけで、酷く落ち込み憔悴した様子のユーノは自分に怪我がないか診ようとした局員を 振りきって走り去ってしまった。実際、彼には本当に怪我はなかったし、この場には居たくなかった。 床に残った血の跡が、『お前の罪だ』と言っているような気がしたからだ。 ネロス帝国本拠地ゴーストバンク、帝王が降臨した謁見の間ではガラドーによる任務報告が行われ ようとしていた。帝国初の魔法の実戦投入ということもあって一同興味津々であったのだが、 帝王も含めその場にいた者は全てガラドー達の様子に首を捻っていた。 「あいつら、なんであんなにボロボロなんだ?」 「確かガキ一人殺すだけだろ?一体何と戦ったっていうんだ」 ガラドーの装甲はいくらか損傷を受け、アルフもまた疲労した様子。影の1人に至っては仲間から 肩を貸してもらってようやく立っているという有様だった。 「ガラドーよ、報告せよ。一体何があった!」 「かしこまりました帝王!本日、我々は目標である伊集院唯をアルフの魔法によって拉致し、 これを抹殺しました。しかしその直後、時空管理局と名乗る魔法を操る者者に襲撃を受けたのです」 「何だと!?」 ガラドーは宙を舞うクロノ・ハラオウンを睨み付けながら、その戦力を測っていた。 (これが屋外なら空を飛べる奴が圧倒的に有利だが、ここは屋内だ。足場も多い、交戦も十分可能 だろう、だが…) ガラドーが警戒するのはクロノの攻撃能力だ。軽闘士に過ぎないとはいえ、影は仮にもネロス帝国で 強化と訓練を受けている戦士だ。それを初撃で3人まとめて倒すなど、尋常の腕前ではない。 それに、幼い外見に反しクロノからは一流の戦闘者のみが纏うオーラのような物を感じる。 紛れもなく強敵であった。 「これが最後通告だ。降伏する気はないんだな?」 いちいち癇に障る上から目線の物言いも、おそらくは実力に裏打ちされたものだろう。 「その前に聞いておこう、時空管理局執務官とは何だ?」 「時空管理局っていうのはこっちでいうケーサツみたいなもんだよ。……多分ジュエルシードを 回収しに来たんだと思う」 「それを知っている君はこの世界の住人じゃないな?結界もミッドチルダ式だったし、大方次元犯罪者に 作られた使い魔といったところか」 ガラド-の質問にはアルフが答える。だがその後に続いたクロノの言葉はアルフに到底承服できる物 ではなかった。 「ふざけんな!あの子は次元犯罪者なんかじゃ…」 「アルフ!!余計なことを口にするな!」 ガラドーの怒声は、頭に血が上ったアルフを一気に冷却した。 (そうだ、こっちの情報を管理局にもらしたらフェイトがどんな目に遭うか…!) 最悪の結末が脳裏をよぎり青くなるアルフ。その言動にクロノは大いに興味を持ったが、現状降伏する 様子のない相手、それも殺人犯とこれ以上問答する必要はないと感じたため実力行使に移ることにする。 「まあいい、話は後でゆっくり聞かせてもらう。……スティンガースナイプ!」 クロノ愛用のデバイス、S2Uの先端から発射された光弾が、不規則な螺旋を描きつつアルフに襲い かかる。敵は魔導師とそうでない者のコンビだが、まずこの場で先に倒しておくべきは重火器などを 持っている様子のないガラドーではなく、使い魔であるアルフだと判断したからだ。 「このっ……」 当たるとヤバイと判断したアルフはかわそうと大きく跳ねた。が、その瞬間である。 バチィッ! 「んなっ!いつの間に!?」 アルフの体をクロノの仕掛けておいたバインドが捕らえる。いったいいつ使っていたのか、それすらアルフには 分からなかった。 「やばっ!!」 誘導性能の極めて高いスティンガースナイプが身動きのとれない相手を外すことなどないが、 それは何の邪魔も入らなければの話だ。スティンガースナイプがアルフを撃ち抜こうとする最中、 ガラドーはクロノに攻撃を仕掛けていた。だが思考を並列処理し、戦場での多角的な対応を 可能とする執務官はそれを喰らうようなことはない。 「ラウンドシールド!」 キィンと甲高い金属の衝突音が響く。投げ放たれた4発の十字手裏剣はクロノが片手間に張った シールドで防がれていた。が、その結果はクロノを驚かせるには十分だった。ほぼ同時としか思え ない速度で立て続けに投げつけられたその小さな金属片は、ラウンドシールドに弾かれることもなく 突き刺さっていたのだ。 (どんな強度の物質だ?いや、どんな力で投げれば……) ドオォンッ!! 「うわあっ!?」 瞬間、クロノの思考は衝撃に揺さぶられた。ラウンドシールドに刺さっていた手裏剣が爆発したためだ。 シールドの破壊には至らないもののかなりの衝撃を受けたクロノは、シールドごと弾き飛ばされる。 同時に魔法の制御が乱れ、アルフに迫っていたスティンガースナイプはあらぬ方向へ曲がって床に激突し、 消滅してしまった。この隙にゆるんだバインドを破壊してアルフは自由の身となる。 (今のは何だ、爆弾か!?あの小ささでなんて威力だ!) 恐ろしい威力の質量兵器。ユーノから話には聞いていたが、実際受けてみるとその威力に戦慄を禁じ得ない。 立て続けに喰らえばその衝撃はバリアジャケットを貫いて、クロノの体をずたずたにするだろう。 「やはり相当の手練れのようだな……」 一方攻撃を防がれたガラドーには驚いた様子はなかった。この程度でやられるようなら彼の直感が 『強敵』と認識するはずはないからだ。だが、小手調べはここまで。ここからは本気だ。 「だが、この技はどうだ!」 その瞬間、ガラドーの姿が一気に増える。クロノだけでなくアルフもその光景に目を見開いた。 「幻術か!?いや、魔法は使っていない!これは一体!?」 「ぶ、分身!?」 ミッドチルダ式の魔法には、虚像を作り出して相手の目を惑わす幻術といわれる魔法が存在するが、 ガラドーの分身はそういった類の物ではない。肉体の改造と飽くなき鍛錬のみが為し得る奇跡の ような業だった。 「くそっ!魔力も無しにこんな真似を!」 クロノの驚愕をよそに、5人のガラドーは少しずつタイミングをずらしながらクロノに飛びかかった。 身軽なガラドーにとってクロノの浮いている『高さ』はアドバンテージとはならない。 虚実織り交ぜた短刀での攻撃が四方八方からクロノに襲いかかる。 (チャンスだ!) ここぞとばかりにアルフも攻撃を仕掛ける。ガラドーの攻撃の隙間を縫うように、二十発ほどのフォトン ランサーが発射される。図らずも上手くいった連携にアルフとガラドーは勝利を期待した。だが―――― 「この程度で落ちるほど執務官は甘くない!」 通じなかった。フォトンランサーはフィールドで受け流し、さらにはガラドーの分身を見切り実体のある 攻撃のみをシールドで弾く。並の魔導師ならば為す術もなく落とされるであろう連携をクロノは防いで みせたのだ。 (今のを防ぐのか!?) (畜生、やっぱり執務官には歯が立たない!どうにかして逃げないと…) 執務官クロノ・ハラオウンは恐るべき敵である。今のガラドーでは勝てぬほどに。 事ここにいたってついに彼は撤退を決意した。 「アルフ、脱出の魔法はあるか?」 「一応……でもあいつが許してくれるかどうか」 「許すわけがないだろう。君達は危険すぎる」 小声で交わしたガラドーとアルフの会話に、しっかり聞こえているのかクロノが割り込んでくる。 おそらくは視覚や聴覚といった感覚を強化する魔法を使っているのだろう。 「だから…完全に無力化してから連行する!」 その瞬間廃屋の中に漲るクロノの魔力。 「ウソだろ!?」 「これは…!」 まるで室内全てを貫かんとするがごとく、100以上の魔力刃が出現する。 あとは呪文を唱えれば魔力刃が雨のように降り注ぎ、目標を制圧するだろう。 全ての虚像もろとも撃ち抜けば、どれだけ分身しようが関係ない。 「スティンガーブレイド・エクスキューショぐッ……!」 魔法を放つ直前、いきなりクロノの呼吸が詰まった。紐のような物が首に巻き付き、クロノを絞め 殺そうとしている。同時にS2Uを持つ右手と左足にも何かが巻き付く。 「ガラドー様!ここは我らに任せてあなたは脱出を!」 「お前達!」 昏倒していたかに見えた3人の影が、隙を見て特殊ロープを投げつけクロノを捕らえたのだ。 「馬鹿な、もう目覚めて…うわああぁっ!!」 影達がスイッチを押すと電流がロープを伝い、クロノの体にダメージを与える。 その威力は装甲の厚い戦闘ロボットにもかなりのダメージを与えるほどだったが、バリアジャケットで 守られたクロノにはそこまでの効果はない。だが、集中を乱し大規模な魔法の行使を妨げる程度の 痛みは与えていた。 「くそ、このガキ化け物か!」 「構うな、時間を稼ぐんだ!」 3人の影は含み針や手裏剣でさらに攻撃するも、クロノは電流の痛みに耐えながら防御魔法で的確に 自分の身を守っていく。バリアジャケットを解除せず徐々に耐電撃仕様にシフトしていくことで、 その動きは目に見えてよくなっていき、影の攻撃は時間稼ぎにもならなくなりつつあった。 影達にも分かっていた。目の前のこの少年は今の自分達では勝てないと。そして彼があと少し呪文を 唱えれば魔法が完成し、頭上を埋め尽くす刃が降り注いで自分達が全滅することも。 「ガラドー様、お早く!」 「馬鹿な、お前達を見捨てて俺だけ逃げられるか!」 と、そこで何かを呟いていたアルフがガラドーに小声で話しかける。 「ガラドー。一瞬でいい、あいつに隙を作ってくれれば全員で逃げられるよ」 「……任せる」 「魔法陣が出たらあたしの周りにあいつらを集めてくれ」 「応!」 ガラドーはアルフの言葉を聞くと、指先を軽く何度か動かして影達に指示を送った。 一方バリアジャケットのプログラム切り替えが完了し、電撃のダメージがほとんど通らなくなった クロノは速やかに魔法を発動させようとしていた。詠唱が中断されいくらかの魔力刃は消滅したが、 大半はまだ頭上に残っている。 「スティンガーブレイド…」 その時クロノの眼前に丸い何かが投げつけられた。爆弾の可能性もあるため、シールドとフィールドを 二段重ねで張る。今度はどんな攻撃があっても魔法を発動させるつもりだった。 「エクス…」 その丸い何かが炸裂する。クロノの体に爆発の音も衝撃も来ない。ただ、もうもうと広がる真っ白い 煙が彼の視界を埋め尽くす。 (な、何だ!?) 「キューション…!?」 質量兵器と呼べるかも定かではない原始的な忍の道具、煙玉。想像以上のローテクで攻撃された クロノは、一瞬視界同様に頭の中も真っ白にしてしまう。爆薬仕込みの十字手裏剣のような部分的に 管理局の技術力を超えた武器や、使い魔のような魔法文明の落とし子を相手にしていたため その落差によるショックは大きい。 そして煙が広がると同時にクロノの体に巻き付いていたロープを引く力がなくなり、煙の向こうで アルフの魔力反応が強まるのを感じる。 (視界をふさがれても隙間無く攻撃すれば同じ事……いや、こいつら逃げる気か!) 「…シフト!」 敵の目的に気付いたクロノは慌てて魔法を発動する。だが、気付くのが遅すぎた。 スティンガーブレイドの着弾とほぼ同時に魔力反応と気配が消え失せる。 『転移魔法か!エイミィ、追跡は!』 『転移先は……ダメ!多重転移してる、追いきれない!』 スティンガーブレイドの何発かは手応えがあった。だが転送で逃げ切られては何の意味もない。 煙が晴れたそこには、もう敵の姿はなかった。 「くそ。なんて奴らだネロス帝国…」 アルフによって命を奪われた少女の亡骸だけが残る現場を見下ろして、クロノは苦々しげに呟いた。 みすみす犯罪者を取り逃がした悔しさが胸を占める。 ネロス帝国との最初の戦いは敗北であると、彼は思っていた。 「……それでお前らはおめおめと逃げ帰ってきたっちゅうんか。帝国の恥さらしやな!」 ガラドーの報告が一区切り吐いたところで、ゲルドリングが嫌味満点な口振りで糾弾を開始する。 この男は他の軍団に失態があれば、自分の所は棚に上げてその非をあげつらうことを常としていた。 「待て、ガラドーは伊集院唯の暗殺という目的は達成している。未確認の敵の情報を持ち帰った 点を鑑みても責められるいわれはないはずだ」 「帝国に刃向かう敵が出てきたら、命に替えてもそいつを仕留めるんが筋……」 「報告いたします!!」 ゲルドリングの言葉をぶった切って、暴魂チューボの大声が謁見の間に響き渡った。 「いきなりなんや、おい!」 「今し方、ゲート6付近で時空管理局と名乗る魔法使いどもと交戦しました!」 突然乱入してきたチューボの言葉に、どよめきが広がる。 「詳しく報告するのだチューボ!」 「はっ!本日、自主トレーニングの途中ゲート6付近で不審者を発見、これと交戦しました。 奴ら自身の語るところによれば時空管理局は異世界の官憲に当たる存在で、使い方次第では 地球を滅ぼす兵器にもなり得るというジュエルシードの回収任務にあたっているようです。 また奴らの中にはブルチェックが以前回収した小動物らしき輩がおり、帝国の情報も漏れている物と 考えられます。ゲートの付近に来ていたのがその証拠かと」 「ぬうう、やはりあの時の奴が!」 帝王は怒りを露わに声を荒げる。ブルチェックがこの場にいれば回路に掛かる負荷が増大しすぎて ショートしていたかもしれない。 「ロビンケンと協力し、3人のうち2人は深手を負わせましたが、奴らは瞬間移動を使用し脱出。 取り逃がしてしまいました」 「チューボ!お前は帝国の秘密を知る者を取り逃がしたというのか!」 「申し開きの言葉もありません!」 チューボは帝王の前に平伏しながら、懐から1枚のカードを差し出した。 「これは敵の所持していたデバイスです。管理局の技術を知るには良き品と考え、奪取して参りました」 「む……」 思わぬ戦利品に帝王の激昂は少しなりを潜める。 「現在ゲート6付近ではロビンケンが警戒を続けています。帝王、おそらくゲート6はその所在が 知られているはず。一刻も早い破棄を進言いたします」 「ふむ、そうだな……チューボよ、ロビンケンを呼び戻し、直ちにゲート6を抹消せよ」 「ははっ!」 帝王の命を受け、チューボは急ぎ足で退室していった。 「さて……」 帝王は右手でレイジングハートを弄び、左手に持った汎用ストレージデバイスを眺めながら思案していた。 (作戦の修正が必要だな…) 帝王ゴッドネロスは天才的な頭脳の持ち主である。それはネロス帝国の戦闘員の殆どが彼の手で作られて いることからも分かるし、また世界経済の大半を牛耳るに至った経営手腕からも分かる。その頭脳が今 高速で稼動し、新たなプランを生み出そうとしていた。 まず彼は機甲軍団の軍団長ドランガーに命を下す。 「ドランガー、ジュエルシードの探索はどうなっている?」 「発見の報は入っておりません」 「ならば機甲軍団は一旦全軍を呼び戻せ」 「はっ!」 続いて帝王はアルフに声をかけた。 「アルフよ」 「えっ!?あ、はい!」 「時空管理局がいかなるものか皆に説明せよ」 「わかっ…分かりました」 ともすれば普段の言葉遣いが出そうになるが、「貴様、帝王に対して不敬だぞ!」などと言われる羽目に なってはたまらないのでアルフは精一杯丁寧に返答する。 「ええと、まず時空管理局っていうのは……」 帝王自身はレイジングハートからある程度の情報を得ていたが、アルフの口から語られる管理局の姿は また違った角度から見たもののため、帝王の好奇心を十分に満たしてくれた。 そしてアルフの説明が終わった後である。戦闘ロボット軍団烈闘士ザーゲンが進み出て発言した。 「恐れながら帝王、このアルフが時空管理局と通じている可能性があるのでは?」 ドクロのような頭部に左手の大鎌、死神の異名を持つ男はアルフに冷ややかな視線を向ける。 だが助け船は意外なところから出された。爆闘士ガラドーである。 「いや、アルフに奴らと通じている様子はなかった。むしろ恐れている様子だったな」 ザーゲンはそれを聞いてガラドーとアルフを交互に見ていたが、やがて忍びのガラドーがそこまで 言うならば、と発言を取り下げた。それを見たアルフは、全員連れて脱出できたことでガラドーに 恩を売れたのではないかと思い内心で喜んでいた。 帝王は最後に、ゲルドリングを呼ぶ。 「ゲルドリングよ、お前達モンスター軍団には特別任務を与える」 「へえ、なんでもしまっせ」 「犬を連れてこい」 「は?」 一瞬、帝王が何を言っているのか分からなかったゲルドリングは目をぱちくりとさせる。 「犬、でっか?」 「そうだ、試したいことがある。早急に捕まえてくるのだ」 「お任せ下さい帝王。おうお前ら、帝王直々のご命や、気合い入れて行くで!」 そう言うと、ゲルドリングは配下を引きつれて謁見の間を出ていく。 「それでは本日はここまでとする。各員、時空管理局との戦いに備えて体を休めておけ」 『ははっ!!』 帝王の姿が消え、その日の会議はそれで閉会となる。 内容の濃すぎる1日を過ごしたアルフは、ようやく休むことが出来そうだった。 「まさか、ここまでやられるなんて……」 リンディは唸った。ユーノの話を聞きネロス帝国が恐ろしい相手であると認識していても、 正直ここまで武装局員が一方的にやられる程とは思っていなかった。 「完全に私の判断ミスだわ……。エイミィ、二人の様子はどう?」 「クラッド君はまだ予断を許さないそうです。出血が多すぎたそうで……。 キール君は峠を越えたようです。現場への復帰は当分無理ですけど」 「……そう。他の局員は?」 「すでに帰投しています。残念ながら成果はなかったそうですが」 「構わないわ、今は安全を最優先になさい」 そこまで報告を聞いてリンディはふう、とため息を吐いた。 「手痛い犠牲を払って得た成果が出入り口1つ、か」 「でも艦長、ここを監視してればネロス帝国の動きも掴めますよ」 「そうだといいんだけど…」 リンディにはそう思えなかった。見かけこそ若いもののリンディも管理局ではかなりのベテランだ。 長年培ってきたその経験が彼女に警告する、そんな甘い相手ではないと。 「艦長!目標に動きがありました!」 オペレーターであるランディの報告で、ブリッジクルーの視線がモニターに集まる。 モニターには、地中に格納中のゲートと、その付近で警戒を続けるロビンケンが映っていた。 ロビンケンがしゃがみこみ地面に向かって何かをやると、ゴーストバンクへと通じるゲートが 地表に姿を現す。 「へっへーん、一旦捕まればもうアースラのサーチャーからは逃げられないよ」 言いながらキーボードを叩くエイミィ。一挙手一投足も見逃さないつもりであった。 「どうやら向こうも帰還するようですね」 迷彩カラーの装甲がゲートの中に消えていくのを見ながら、アレックスが現況を語る。 「まあしばらくはここを見張って…」 ドオオォォォン!!! アレックスの言葉を遮るように、突如響き渡る轟音。画面の中ではゲートのあった場所から土煙が 立ち昇っている。 「一体何!?……ええ!?これって、まさか!」 「何があったのエイミィ、報告して」 サーチャーが集めたデータを整理して、エイミィは頭を抱えた。そこに示されているのは、苦労して 発見した監視対象の消滅だったからだ。 「地中より激しい振動を感知、おそらくは爆薬によるものと思われます。威力から見て、あの 出入り口を丸ごと爆破したのではないかと。……ホント、なんて奴らよ!」 「ばれそうになったから出入り口そのものを消滅させたってことなの…?」 そこに、扉を開けてクロノがブリッジへ入ってくる。 「どうやら、ネロス帝国というのは相当の曲者らしいな」 「クロノ君大丈夫?こっちから見る限り結構苦戦してたみたいだけど」 「クリーンヒットは1発も貰ってないよ。1発でもくらってたら今頃僕も医務室の世話になってる ところだが」 元気そうな息子の様子にホッとするリンディだったが、すぐに表情を引き締め『母親』ではなく 『艦長』としての顔でクロノに問いかけた。 「クロノ・ハラオウン執務官、ネロス帝国と交戦してみてあなたはどう思いましたか?」 「彼らは危険です。まず殺人という行為を当たり前のように実行に移すその精神。それに武装の レベルや戦闘技術も侮れません。ユーノの奴が言っていたとおり、質量兵器を中心とした一部の 技術では管理局を上回っている可能性は高いです」 そこで一旦クロノは言葉を切る。続けて何を言うべきか、彼にしては珍しく迷っている様子だった。 「だけど、どうにも妙でした」 「妙、というのは?」 「使い魔の存在が浮きすぎています。あの組織に次元犯罪者が絡んでいるとしたら、あまりに魔法への 備えがなさすぎる。あいつら、腕は立つのにまるで初めて魔導師と戦ったみたいにちぐはぐでした。 それにあの使い魔が何を言おうとしていたのか気になります」 「魔法を知らない現地の犯罪組織が、たまたまこの世界に来てた魔導師を捕まえた、なんてことないよね」 偶然とは言えエイミィの当てずっぽうな推理はかなり核心を捕らえていた。 もっとも今の彼らにそれを知ることは出来ないのだが。 「いや、まさかそんなことは…」 「肯定は出来ないけど否定する事も出来ないわね。まだ分からないことだらけよ、可能性を狭めるのは やめておきましょう。ところでエイミィ、ユーノ君はどうしているかしら」 「あー……部屋にいるみたいです。いきなりあれじゃあショック大きすぎですよね」 「同行した二人は瀕死の重傷、本人も殺されかけたわけだし……きっとひどく傷ついているわ。 あの子のケアのことも考えないと」 リンディ、クロン、エイミィはそろって深々とため息を吐いた。 「ホント、世界はこんなはずじゃないことばかりだ」 アルフは今ある理由で途方に暮れていた。 「腹減った…」 昼食は車の中でガラドーに分けて貰っていたのだが、夕食をどこでもらえばいいか分からず困って いたのだ。人ではないのだからモンスター軍団で食事をとるのが妥当でしょう、と秘書Kに言われて モンスター軍団のエリアに来てみたものの、「はあ?下っ端に食わせる飯なんかねえよ」「犬なんや からそのへんでネズミでも捕まえて食うたらどうや」などと心ない言葉を浴びせられた揚げ句食料を 得ることが出来なかったのだ。どうもいきのいい犬を捕まえるのに苦労しているらしく、同じイヌ科 であるアルフへの風当たりが厳しい。 (でもまあ、どっちみちあれは食べたくなかったしねえ) 思い出すのはモンスター軍団員がうまそうに食べていた食料。いや、あれを食料と呼んでいいものか、 モンスター軍団は大皿に山盛りになった白い泡のような物をうまそうに食っていたのだ。 (こうなりゃホントにその辺の山で何か捕まえて…) 「おおアルフ、ちょうどいいところにいたな。お前を捜していたところだ」 「…ガラドー?」 外出許可はどこでもらえばいいのか、と考え始めていたアルフにいきなり声をかけてきたのは 今日一日ですっかり見慣れた感のあるガラドーだった。相変わらず気配は感じなかったが。 「ついて来い」 「え?ああ、うん」 理由も言わず歩き出すガラドーに、反論する術を持たないアルフは仕方なくついていく。 その行き先は、ヨロイ軍団のエリアだった。 「よし、入れ」 「いったい何……え、これって」 ドアの中には広々とした空間があった。そこにはヨロイ軍団勢揃いか、と思うほど大勢のヨロイ軍団員と、 大きめのテーブルがいくつか、そしてなかなかに豪勢な肉を中心とする料理がたくさん用意されていた。 「こりゃ、いったい…」 「今日の戦い、お前がいなければ俺は影を犠牲にして逃げねばならんところだった。 これはせめてもの感謝の印だ」 「え…マジ?」 その時アルフ達が入ってきたのとは別の扉を開け、銀色の甲冑を纏う戦士が姿を現した。 その男、軍団長クールギンが食堂に入ってきた瞬間その場にいた全員が雑談をやめ、佇まいを整える。 クールギンは静かになった室内を通り過ぎると、何が起こるのかと内心ビクビクしているアルフの前 で歩みを止めた。 「私は凱聖クールギン、このヨロイ軍団の長を務めている。アルフよ、我が軍団の影を救ってくれた こと深く感謝する。我がヨロイ軍団は恩義には報いる主義だ。何か困ったことになったときは我が 軍団の者に相談するがいい。帝王の御意志に反しない範疇で力になろう」 「あ…その……ヨロシクオネガイシマスデス」 秘書Sから帝国のシステムについて簡単に説明を受けていたアルフはかなり驚いていた。凱聖といえば 帝王に次ぐ位置にある最高幹部のはず、その人物がわざわざ奴隷同然の扱いであるアルフに礼を言いに 来るのはアルフの常識では考えられない。相手が想像以上のVIPだったこともあってかなり緊張して しまったアルフは、使い慣れない敬語を使って片言の挨拶を返すのが精一杯だった。別段アルフは偉い 人間が苦手というわけではない。ネロス帝国の偉い人間の機嫌を損ねるわけにはいかない、という思い がアルフに緊張を強いたのだ。 「皆の者、今宵はアルフを虜囚ではなく客人として遇する。異議はあるか!」 『異議なし!』 「よし!ならば今宵は思う存分飲み、食らうのだ!新たな敵、時空管理局との戦に備え英気を養え!」 『応!』 かくして、アルフを交えての宴がヨロイ軍団で開かれたのであった。 「俺は暴魂チューボだ。お前達が戦った相手は若いが腕利きだったそうだな」 「ああ。執務官てのは管理局の中でもよっぽど腕の立つ奴でなきゃなれないエリートなんだ。 あの歳で執務官やってるってことは、あいつは天才ってやつだと思うよ」 「俺の戦った奴は腕はさほど大したことがなかったが、とにかく空を飛んでいるのがやっかいでなあ。 魔導師との戦い方を考えねば……。そうだ、アルフ。今度修行に付き合ってくれるか?」 「あたしで役に立てるなら喜んで」 「爆闘士ロビンケンだ。管理局という組織についていくつか聞きたい」 「あたしもあんまり詳しくは知らないけど、分かる範囲でいいなら答えるよ」 「助かる。まず、奴らの戦力規模はどれくらいだ?」 「管理局は次元世界に手を広げすぎて慢性的な人手不足らしいから、ここみたいな辺境の管理外世界には 次元航行艦単艦で来てると思うよ。一隻にどれくらいの戦力が乗ってるかまではちょっと……」 「雄闘バーロックだ。よろしく頼む」 「こちらこそよろしく」 「管理局が使う魔法について聞きたいんだが……」 「しかし、飯食うときでも仮面外さないのが結構いるんだねえ」 「別段不便はないさ、慣れているからな。口元さえ開けば食事はとれる」 「へえ……。そういや軍団長って人は全然食べてないみたいなんだけど」 「軍団長はいつもご自分の部屋で食事をとられる」 「そりゃまたなんで?」 「忠告しておこうアルフ、地球には『好奇心は猫を殺す』という言葉がある」 「ありがと……余計なことは考えないようにしとく」 「それでいい。特に帝王の身辺を探ろうなどとは考えんことだ。恩人を手に掛けたくはない」 「肝に銘じとくよ。……ええっと、あんたはなんて呼べばいい?」 「我々は影だ。個人を識別する名前など必要ない」 このように多くのヨロイ軍団員と交流を深めていたわけだが。 自分の手元にある大きな肉の塊を眺めながら、アルフはふと呟いた 「あたしだけこんないい思いしてていいのかな…」 宴に招待され今がチャンスとばかりに顔を売っていたアルフだが、未だ牢の中のフェイトを思うと 胸が痛む。 「どうした、好きなだけ食っていいんだぞ」 「フェイトのことが心配なんだよ。あの子、一人で寂しくしてないかな…」 その言葉を聞いて、一人の影が進み出た。 「軍団長、ビックウェインに差し入れを持っていこうと思うのですがよろしいでしょうか」 「なに、ビックウェインに?……ふ、そういうことか。いいだろう、許可する。奴も単調な任務で 暇を持て余しているだろう。退屈を紛らわせるものも何か持って行ってやれ」 「はっ!!」 言うが早いがその影はてきぱきと料理をまとめて部屋を出ていく。 「ガラドー、ビックウェインって…」 「牢の見張りをやっている戦闘ロボットだ」 「そっか。………ありがとう」 このネロス帝国を支配するゴッドネロスはまさに悪の権化だ。だけど、帝国を構成するメンバーは、 帝王ほど悪い奴らじゃないのかもしれない、そう思うアルフだった。 「なに、わしに差し入れ?」 「はい。もし必要なければ捕虜にくれてやるなり牢の中に捨てておくなり好きにしてくれ、 とのことです」 「ほう、これは……。分かった、好きにさせてもらう」 影の持ってきた包みを見て、大体の事情を察したビックウェインはそれ以上を聞かなかった。 「ところで、フェイトの様子はどうですか?」 「落ち込んではいるが今のところ健康状態に問題はないな」 「了解しました。それでは自分はこれで」 ビックウェインが呼び止める暇もなく、影はその場から姿を消す。 「あわただしい奴だな……。まあいい。フェイト、こいつはお前にやろう」 そう言ってビックウェインは、影の置いていった風呂敷包みを鉄格子の前に持って行った。 風呂敷をほどいた中からはタッパーに詰めた何種類かのご馳走と、数冊の本が出てくる。 「え?あの…だけど、これはあなたへの差し入れだって…」 フェイトには、何故自分がこんなものをもらうのかが理解できない。 「ロボットは飯を食わんよ。それにしても……わざわざこんなものが来るくらいだ、 アルフは上手くやっているようだな」 「アルフが!?」 「わしは今ここを離れられんが、今日何かしら戦闘があったことは聞いている。アルフがお前に 準じる強さを持っているというなら、働きを示せてもおかしくはない。もっとも、初日から 戦闘に駆り出された事には同情するがな」 目の前の少女がバーベリィを撃墜した事実を思い出しながら、ビックウェインは話し続ける。 「まあせっかくのもらいものだ。しっかり食べて体力を付けておけ」 「でも、その……私、こんなに食べられません……」 「食べられる分だけでいいから食べておくといい」 「……はい」 不自由極まりない身の上であったが、目の前のこのロボットが色々と自分に気を使ってくれて いることはフェイトにも分かった。無骨な戦闘ロボットらしく不器用ではあったが、その優しさが フェイトには嬉しかった。 (お父さんって、こんな感じなのかな…) ふと、知識でしか知らない単語がフェイトの脳裏をよぎった。それは母を裏切ってしまったと自分を 責め続ける少女に、ほんの少しだけあてられた暖かい光。あたかも血の池でもがく盗人が目の前に 垂らされた蜘蛛の糸に飛びつくように、フェイトはそこに縋ろうとしていた。母の下には帰れず、 使い魔とは連絡が取れず、世話係のウィズダムは悪い人間ではないがずっといるわけではない。 フェイトの閉ざされた世界には、他に救いがなかったから。 しばらくして、食事を終えたフェイトは風呂敷に入っていた本を開いてみた。 「………………………………」 「……どうした?」 無言で眉をひそめ、本とにらめっこするフェイトの様子を不審に思ったビックウェインは 思わず声をかけた。フェイトは何と答えていいのか迷っている様子だったが、やがて 僅かに頬を染めながらおずおずと答えた。 「……読めないんです」 「そういえば地球人ではないんだったな。なら本が読めないのも仕方なかろう」 どうやら字が読めないことを恥じているらしいフェイトを慰めると、ビックウェインは 1冊の本を手にとってみた。どうせ暇だし、子守の真似事をしてフェイトに本を読んでやるのも 悪くないかもしれないと思いながら。 「なんならわしが読んでやっても……」 タイトルを見て思わず絶句する。表紙には行書体で大きく『太平記』と書かれていた。 鎌倉幕府の滅亡から室町幕府の興り、南北朝の時代までを描いた軍記物語である。 「……ウィズダムにもう少し子供向けの書籍を手配させておこう」 「すみません……」 よく分からないが自分のせいかと思ったフェイトは反射的に謝ってしまう。これもプレシアによる 虐待の賜物だろう。ビックウェインがそのことに気付くことはなかったが。 「まったく、ヨロイ軍団の趣味は渋すぎていかん。せめて……」 小声で彼は怒りを露わにする。 「せめて現代語訳しておくべきだろうに!」 ――――論点が大きく間違っていた。 伝説の巨人ビックウェイン、戦闘以外は結構からっきしの3級品なのかもしれない。 ネロス帝国との初戦は管理局にとって苦い結果となった。 心に傷を負ったユーノは、全てを忘れるためにがむしゃらに働く。 だが、アースラの総力を結集しても帝国の正体は全く掴めなかった。 一方帝王ゴッドネロスは恐ろしい計画を着々と進めていた! 次回、魔法帝王リリカルネロス 「ここは地の底、ゴーストバンク」 こいつはすごいぜ! 提 供 桐原コンツェルン ヨロイ軍団 時 空 管 理 局 このSSは、野望をクリエイトする企業、桐原と 和の心を愛するヨロイ軍団、 ご覧のスポンサーの提供でお送りしました。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/162.html
突如として現れた巨大なロボット――。 それによってミッドチルダの平穏は壊された。街は崩れ落ち、人々は逃げ惑う。 多くの生命が犠牲になり、生き残った者もその人生を狂わされた。 それに比べれば些細なことなのかもしれない。 だが、この少年もまた不条理な出来事に、日常と平穏に別れを告げることになる。 それはミッドチルダに『風』が吹き荒れた日から遡ること2日前のことであった――。 魔法少女リリカルなのは―MEOU 第一話―B「少年は牢獄に己を失う」 「僕は……何でこんな所にいるんだろう……。」 少年、『秋津マサト』は呟く。答える者はいない。 声は薄暗い個室の壁に吸い込まれ、再び静寂が支配した。 どれくらいこうしているのか――時間の感覚はとうに無くなくなっている。 電灯も窓もない、薄汚い個室は牢屋と呼ぶ方が適切かもしれない。 今朝も普通に家を出て、普通に学校に通う――退屈な日常のはずだった。黒服の男に背後から何か嗅がされるまでは。 目が覚めた時には、既にこの牢屋の中だった。 「出せぇー!!ここは何処なんだ!何で僕を閉じ込めるんだ!?」 マサトは抗った。拳から血が滲むまで扉を叩き続け、喉が掠れるまで叫んだ。 何時間そうしていただろう。 扉の向こうから物音がする。 「父さん!?母さん!?」 覗き窓から辛うじて見えるのは、朝に家で挨拶をした父と母の姿。 「ここはどこなの!?閉じ込められてるんだ、外から何とか開けられないかな?」 必死で訴えても、答えは返らない。 父は目を逸らし、母は俯いて泣いていた。 「どうしたの?なんで何も言ってくれないんだよ、父さん!母さん!」 「御両親は答えられないようだ。代わりに私が教えてあげよう」 声の方に目線をやると、それはマサトを眠らせた男と似たような黒服の男だった。 濃色のサングラスで目は見えないが、全体的に痩せ型で頬も少々こけている。 「君は御両親の本当の子供ではない。御両親には15年間、君の養育をお願いしていたのだよ」 マサトは驚きに声を出すことさえできなかった。 「本当なの!?父さん!」 「たった今、月々の養育費とは別の礼金をお渡ししたところだ」 父は答えようとはしない――それが答えだった。 「父さんは……僕を売ったの?」 違う、と言って欲しかった。しかし、感情とは別に、そんな答えは最早望めないだろうことも解っていた。 それならば、せめて沈黙を守って欲しかった。 だが――父の答えは残酷だった。 「最初から……契約だったんだ。私達は元々家族なんかじゃなかった。十五年間、お前を育てる契約――それが終わって本来の関係に戻っただけだ」 「そんな……」 身体から力が抜けていく。 たとえ監禁されていても、両親が警察に連絡してくれる。必ずあの家に――ずっと暮らしてきた家に帰れる。 そう信じていた。 でも、そんな淡い期待は呆気なく砕けてしまった。 もう――自分には帰る場所は無くなってしまったのだ。 「それでは……私達はこれで……」 父が男に会釈して去っていく。 「待ってよ!!母さん、母さんは僕のことを……」 「ごめんなさい……マサト……」 そう言って、両親は視界から消えていった。 母は泣きながら父に肩を抱かれて歩く。二人はマサトを振り返ることすらなかった。 「父さん……母さん!」 マサトは扉の前に崩れ落ちた。立ち上がる気力もない。 外では男が何か話している。 「沖、これは何の真似だ?ここまで連れてきて……俺に何を見せたいんだ?」 「久しぶりに再会した旧友に、随分冷たいな……ナカジマ」 それはさっきの男とは違う声だった。他にもいたのだろうか。 「旧友だと……?ふんっ。それを言うなら"共犯者"だ」 それさえも、もうどうでもいいことだ。 そして、そのままマサトの意識は闇に溶けていった。 何故、自分はこんなところにいるのか――。 『ゲンヤ・ナカジマ』の問いに答える者はいない。 自分で決めたこととはいえ、そう思わずにはいられなかった。 起動六課隊長、『八神はやて』と早めの昼食を共にし、店先で別れた直後にゲンヤは背後から声を掛けられた。 「久しぶりだな……ナカジマ」 振り向いた先に立っていたのは、かつての彼の同僚である沖功であった。 とはいえ、十数年近く顔も見ていなかったが、その声と鋭い目つきは変わっていない。 「お前……沖か?」 彼は黙って頷いた。 本当に久しぶりの再会のはずなのに、ゲンヤにはとても懐かしさは湧いてこない。 「お前が俺に何の用だ?」 「用が無ければ昔の同僚に話しかけるな――と?」 ゲンヤは黙って沖の胸倉を掴んだ。 この男は昔からこうだった。いつも意味深で何かを隠している。目的の為には人を利用することを厭わない。 だが、それも私欲の為でなく、組織の為だったから彼とはやって来れた。 そう、十五年前までは――。 「ここでは人目に付く。ついて来い、ナカジマ。お前の――いや、俺達の過去の清算だ」 沖は動じることもなくそう言った。 またもや意味深な言葉だ。が、ゲンヤは黙って彼に従った。 そうせざるをえない理由があったからだ。 「いいぜ。どこでもついて行ってやる」 沖に連れられ、聖王教会の遥か地下へと降りていく。 「こんな地下に何があるってんだ?」 「お前に見せたいものがあってな。それに、彼女もお前に会いたがっているぞ」 「彼女だと?」 沖はそれ以上は答えようとはしなかった。 何にせよ、今は沖に従うしかない。 地下へ降り、無機質な廊下を歩くこと数分――。急に広い空間へと抜ける。 そこは多くの機材が置かれ、スタッフらしき人間が忙しなく働いていた。 その中心には―― 「ゼオライマー……!」 50mはあろうかという巨大なロボットが立っていた。 それはゲンヤと沖が袂を分かった原因。 忘れたくとも忘れられない存在。 「どうだ、ナカジマ。懐かしいだろう?」 「まったく……懐かしくて涙が出そうだ……」 それはゲンヤと沖の罪の証。 十五年前、これに乗って逃げてきた男は、もうこの世にはいない。 そしてせめてもの罪滅ぼしとして――。 そこまで考えて、ゲンヤは沖の言葉の意味に気付いた。 「まさか……過去の清算ってのは……!」 「そうだ。それはおそらく、もうじき始まるだろう」 これが真実ならば大変なことになる。 いや、聖王教会の地下に"こんなもの"が存在する時点で、既に次元世界全てを巻き込むことになりかねない危険が迫っている。 そう上は考えているのだ。 「彼女がお前に挨拶したいそうだ」 沖はゲンヤの後ろに視線を促す。 そこには娘と同じ位の年齢の美少女が立っていた。 その顔には見覚えがある。かつてほんの僅かな期間だが面倒を見た少女の面影――。 「お久し振りです。ゲンヤおじ様」 そういって彼女は頭を下げた。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/girlwithlolipop/pages/49.html
フェイト・テスタロッサ&ランサー ◆lHaWUMA7LM 「……」 「……」 無言。 音と呼べるものは、カチャリ、とナイフとフォークが食器に触れる音ぐらいなものだ。 少し年嵩のいった女は感情の読めない表情を貼り付けたまま、小さく切り分けた料理を口に運ぶ。 金色の髪を側頭部で二つに縛った童女は、隠し切れない動揺と喜色を努めて隠そうとしている。 カチャリ、カチャリ、と。 音だけが響く中で、しかし、童女は現状を受け入れている。 女が童女に激情をぶつけてこない日は珍しい。 ましてや、食事を共にするなど、それ以上だ。 「……どうかしら」 「え?」 年嵩のいった女『プレシア・テスタロッサ』は、やはり感情の見えない言葉を発する。 童女『フェイト・テスタロッサ』は、その意図が読み取れずに 「味は……料理なんて久しぶりにしたから」 「その……」 「昔は、よく作ってあげていたけど……美味しい?」 言葉とは裏腹に、ひどく興味の薄い様子だった。 それでもフェイトにとっては稀な、大げさに言ってしまえば、夢の様なことであった。 何が正解なのかを考えつつ、言葉を探る。 しかし、このような出来事に『慣れて』いないフェイトにとっては最適解の経験がない。 ゆっくりと考えたフェイトは、怯えるように声を出した。 「美味、しい」 「そう」 「また、作って欲し――――」 フェイトが言い切る直前、半ば被せるようにプレシアは言葉を紡いだ。 やはり、興味のなさそうにカチャカチャと、小さな音を立てながら。 「昔は苦手だったのにね」 「……え?」 プレシアは、やはり興味のなさそうに、ナプキンで口を拭う。 フェイトはプレシアの言葉を理解できず、口をつむぐ。 そんなフェイトの様子にすら気を取られず、プレシアは言葉を続けた。 フェイトに言葉を与えながら、その感情はフェイトに向かっていなかった。 「根菜が苦手なのね……体質的な問題なら考えたけど、単なる好き嫌いで。 だから、調理の仕方について色々と考えては見たけど、ダメなものはダメだったわ」 「……」 プレシアは自身の言葉がどんな意味を持っているのか理解しながら、しかし、何の躊躇いもなくフェイトへと告げる。 フェイトはその言葉の意味を理解できずも、脳に宿った記憶情報の曖昧な部分が痛みを発し、口を鎖す。 それは言葉を発することを辞めただけでなく、食事を摂ることも止める行動だった。 プレシアはもう一度尋ねた。 「美味しい?」 「……」 「ゆっくり食べなさい」 カチャリカチャリ、と。 音だけが響いた。 ◆ フェイト・テスタロッサは、プレシア・テスタロッサの実の娘ではない。 プレシア・テスタロッサが腹を痛めて、自然出産によって産んだ娘ではない。 アリシア・テスタロッサこそが、プレシア・テスタロッサの実の娘である。 「今から、貴女には聖杯戦争に参加してもらうわ」 「えっ……?」 プレシアの言葉にフェイトは虚をつかれた。 ジュエルシードの回収を命じられ、未だジュエルシードは揃っていない。 その最中に出会った少女との関係も、未だ曖昧なまま。 何も成し遂げておらず、心には自身も理解できない歪な想いだけが残されている。 「あの、ジュエルシードは……?」 「……貴女が考える必要のないことよ、フェイト」 プレシアは決してフェイトに本心を伝えようとしない。 フェイトもそれを知っている。 ジュエルシードは重要なものなのだろう。 それでも、ジュエルシード以上の物を見つけた、と言ったところか。 あるいは、ジュエルシードの索敵こそが時空管理局の目眩ましなのか。 目眩まし、といえば、全てが目眩ましなのだろうか。 本当の目的は聖杯戦争であり、万が一にでも時空管理局の介入を避けるために、ジュエルシードを用いた。 超のつくロストロギアであるジュエルシードならば、これ以上とない目眩ましだ。 先ほどの時空跳躍という大魔法の行使によって、大きな動きは当分ないと思っているはずだ。 正しく、機会は今なのかもしれない。 フェイトに様々な疑問がよぎるが、その疑問を口にすることは出来なかった。 「媒体は用意してあるわ。貴女は儀式を行えばいいだけ」 そう言って、プレシアはフェイトに手渡す。 触れ合った際に感じた手の温度は、ぞっとするほどに冷たかった。 手渡されたものは、次元固定された胎児のような形をした何か。 ジュエルシードとは異なる聖遺物であった。 遺失された世界――――あるいは書き換えられた世界に残されたもの、ロストロギア。 その聖遺物の名は白き月、『第一使徒アダム』である。 「始まり、あるいは、終わりを求めれば、誰もがその部屋に辿り着く」 「……?」 「ガフの部屋、そこに至るまでの道……今はまだ……」 すべての魂が生まれ、すべての魂が還るとされている空間の例え。 なぜ、今、その単語を口にしたのか。 フェイトは訝しみながらも、その意図を尋ねることは出来なかった。 フェイトはプレシアを愛している。 しかし、同時にフェイトはプレシアを恐れていた。 心の壁がフェイトとプレシアを確かに隔てている。 ◆ 「素に少女と杯。礎に使徒と契約の大公。祖には光の始祖アダム。 そびえ立つ十字には白雪を。四翼の天使は堕ち、白より出で、黒に染めし星を収束せよ」 「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。 繰り返すつどに五度。 ただ、満たされる刻を補完する」 「―――――Anfang セット 」 「――――――告げる」 「――――告げる。 汝の身は我が剣に、我が命運は汝の仮面に。 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」 「誓いを此処に。 我は生命の実を摂る者、 我は知恵の実を捕る者。 されど汝はその貌を獣に覆いて侍るべし。汝、衝撃に囚われし者。我は汝を祖とする愛し子――。 汝、死海を導く始祖、黒き月へと至れ、白き罪人よ―――!」 ◆ 「至らなければいけない……」 聖杯戦争におけるサーヴァント召喚の痕跡を眺めながら、プレシアはふらふらと歩き始めた。 プレシアの目的は、真に『魔に至る法』。 現在プレシアやフェイトたちが行っている魔法は、『魔を展開する法』。 この二つには大きな違いがある。 法を土台にして扱う術である後者に対して、前者は法そのものを扱う。 科学が物理法則を塗り替えることが出来ないように、後者は法を覆すことは出来ない。 言ってしまえば、後者の魔法は奇跡ではない。 前者は、まさしく法を塗り替えるものだ。 「……ッ!」 瞬間、プレシアの身体が震える。 喉を震わせ、口内から血が吹き出る。 時間がなかった。 崩壊に近づいているプレシアの身体。 それでもなお、ジュエルシードを放棄し、フェイトを聖杯戦争へと向かわせた。 己の目的のために、己の悲願のために。 『人類補完計画』 『天の杯』 『プロジェクト・F.A.T.E』 そのどれでもあって、そのどれでもないもの。 あるいは、流転する魂からの乖離。 あるいは、喪失した魂のサルベージ。 神をも否定する、始まりの魔法――それは彼女が求めた運命の夜。 『第一の魔法――― 魂のルフラン 』 ◆ 「……」 少女を精製し、少女性を確立し、少女を聖杯へと至らせる聖杯戦争。 フェイトは聖杯戦争参加の正しき手順を踏み、その正しさ故にこの聖杯戦争では異端となる参加者へと至った。 「……貴女が、私のマスター?」 そこに居たのは、白雪のような少女だった。 白い肌は雪原のようで、薄い青に染まった髪は青空のようで。 だからこそ、真っ赤な真っ赤な、血に染まったような槍が目を引いた。 感知の類に秀でているわけでもないフェイトでもわかる、超級の神秘を保持した槍だ。 「貴女が、私のサーヴァント?」 「……ランサーのクラス」 フェイトの問いに、少女、ランサーのサーヴァントは短く応えた。 ステータスは、低い。 ひょっとすると、対人戦闘においてはフェイトの方が秀でている可能性もある。 それでも、絶望や失望に似た感情を抱かないのは、やはり槍の存在。 その槍は、絶えずフェイトの目を惹く。 神秘とは、まさにその槍のことを言うのだろう。 「貴女の願いは、なに?」 儀礼めいた問い。 フェイトも感情の表現に長けた存在ではないが、ランサーはその比ではない。 心と呼べるものはないのではないかと、勘違いしてしまうほどだ。 「……願いは」 ふと、その答えを口にしなければいけないことに躊躇いを覚えた。 それでも、フェイトは一度だけ喉を震わせただけで、その願いを口にした。 ある意味ではフェイトの願いであり、フェイト自身の望みではないもの。 「母さんの、幸せ」 「……」 ランサーはその白さをそのままフェイトへと向ける。 あらゆる色を感じさせない、白さだった。 「その答えが、貴女の願い?」 「……」 「もう一度、きっと尋ねる時が来る。 貴女が、聖杯 ??? に願いを託すとき」 そのまま、ランサーと視線がぶつかった。 白雪のような、ある種の不気味なものを感じさせるランサー。 奥底の見えない言葉を紡いでいく。 フェイト自身も咀嚼できない、曖昧な記憶の答えを、真実を知っているのではないか。 そう思わせるような、不思議な少女だった。 「私 ?? は、貴女にもう一度、願いを尋ねるわ」 ランサーのサーヴァント『綾波レイ』の不可思議な瞳に。 フェイトは視線を逸らすことが出来なかった。 【クラス】 ランサー 【真名】 綾波レイ@新世紀エヴァンゲリオン(漫画) 【パラメーター】 筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:B 幸運:D 宝具:EX 【属性】 秩序・中庸 【クラススキル】 対魔力:EX 心の壁であるA.T.フィールドによって隔絶されている。 A.T.フィールドを中和しない限り、綾波レイに対して攻的な魔術で干渉することが出来ない。 【保有スキル】 A.T.フィールド:- 誰もが所有している心の壁を物理的な障壁として現界させたもの。 A.T.フィールドは中和されない限り、あらゆる攻撃を隔絶する。 一定の衝撃を超えることで貫くことも可能ではある。 誰もが持つものであるため、このスキルに神秘としてのランクは存在しない。 【宝具】 『残酷な天使の運命(ロンギヌス・オリジナル)』 ランク:A++ 種別:対使徒宝具 レンジ:2-5 最大捕捉:5人 人の魂と生命に干渉して『卵』、すなわち、『ガフの部屋』あるいは『英霊の座』へと強制的に還す力を持つ槍。 地球の生命体の始祖である第一使徒アダムと第二使徒リリスを拘束した槍、それ自体が生命である神造兵装。 他の宝具と同様に、真名を解放しない限りは能力は発揮されない。 『心よ、原始に戻れ(サード・インパクト)』 ランク:EX 種別:補完宝具 レンジ:1.083 207×1012 km3 最大捕捉:3,500,000,000 アダムとリリスが融合することで、自身の系譜である地球上の生命体の心の壁を破壊させる。 レイの魂であるリリスが持つ、A.T.フィールドを消滅させるアンチA.T.フィールドの力である。 心の壁を融解させることは人と人の垣根である、魂の入れ物である身体を喪失させることである。 すなわち、自身の心と他人の心を区切るための身体を消滅させ、『現代の多様な人類』を『原初の海』の形にする。 A.T.フィールドが隔てている心を持っている限り、この宝具からはどのような存在であろうとも逃れることが出来ない。 【weapon】 『ロンギヌスの槍』 A.T.フィールドを貫くアンチA.T.フィールドとしての特性を持ち、転じて、あらゆる魔術障壁を貫く神秘を持っている。 【人物背景】 汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン『EVA零号機』のパイロット、ファーストチルドレン。 ほとんど感情を表に出さず、寡黙で常に無表情だが、感情の表現の仕方を知らないだけである。 当初は育ての親とも言える『碇ゲンドウ』にのみ心を開いていた。 が、『碇シンジ』と出会ったことで彼とも絆を深めていき、次第に様々な感情を見せ、自我といえるものが芽生えていく。 あらゆることに対しての『経験』がなく、浮世離れしたところもある。 その正体はシンジの母親でありゲンドウの妻でもある『碇ユイ』と『第一使徒アダム』のハイブリットクローン。 何らかの原因でレイが死んだ場合、魂を多数のクローン体の新しい肉体に移し変えることで復活する。 その際に記憶はリセットされ、また、学んできた感情も白紙に戻る。 魂は『第二使徒リリス』のものである。 また、レイが心の奥深くにいるリリスと会話したり、地下の磔にされている肉体だけのリリスと会話する場面も存在する。 そして、魂が移され綾波レイになったことで、リリスだった頃の記憶はほぼ持っていない。 綾波レイとしての肉体が長く保てないのは、本来の自分の肉体ではないからとされている。 レイはリリスとしての己を取り戻し、アダムと結びつくことで『人類補完計画』を発動させた。 A.T.フィールドが喪失し、あらゆる心と心が一つになった。 その世界の中でシンジに願いを問いかけた。 その後、補完世界は再生され、人類は元に戻った。 ただ、地面に量産型EVAが十字架のように突き刺さり、 綾波レイは人としての形を喪失させ、ただ、降り積もる白雪としてシンジたちを包んでいる。 ちなみに、A.T.フィールドは超電磁スピンで壊せる。 【サーヴァントとしての願い】 綾波レイはある種の願望器の一つであり、碇シンジの願望器としての役目を果たしている。 そのため、明確な自身の願望を持たない。 【基本戦術、方針、運用法】 ロンギヌスの槍は強力な宝具だが、レイ自身の基本的にスペックが低いために直接戦闘には向かない。 サード・インパクトさえ発動してしまえば、その際にはマスターであるフェイト自身の意識も飲み込まれてしまう可能性が高い。 【マスター】 フェイト・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは 【参加方法】 コーディングされた第一使徒アダムを媒体とした儀式。 【マスターとしての願い】 母の願いを叶えるために、聖杯を持ち帰る。 【weapon】 『バルディッシュ』 「闇を貫く雷神の槍、夜を切り裂く閃光の戦斧」 インテリジェント・デバイス。 魔法の行使を補助する、発動の手助けとなる処理装置、状況判断を行える人工知能も有している。 意志を持つ為、その場の状況判断をして魔法を自動起動させたり、主の性質によって自らを調整したりする。 その上、人工知能を有しているためかインテリジェントデバイスは会話・質疑応答もこなせる。 待機状態におけるペンダント状のスタンバイフォーム、中距離状態における戦斧型のデバイスフォーム 、 近接戦闘特化した鎌状のサイズフォーム、ある一つの魔法に魔力を向ける槍型のシーリングフォームがある。 【能力・技能】 『魔導師』 魔導師として高い適正を持ち、一桁の年齢でありながら上位階級であるAAAクラスに匹敵する才能を持つ。 高い機動力を生かした中~近距離戦、射撃と近接攻撃を得意としている。 特にスピードは現時点でも本作登場の全キャラクター中で最速と言えるレベル。 また、彼女の攻撃魔法には雷を伴うものが多い。 回避力に優れる一方、防御にはやや難ありで、バリア出力はあまり高くない。 本人曰く、「速く動くこと、動かすこと」「鋭く研ぎ澄ますこと」は得意だが同時発動や遠隔操作は苦手とのこと。 『魔力変換資質』 魔法によるプロセスを踏まず、魔力を別のエネルギーに変換する事が出来る能力。 本来魔力によるエネルギーの発生には魔法というプログラムによる組み替えが必要とされるが、この資質を持つ者は魔法を介さずにエネルギーを発生させる事が出来る。 その代償なのか、この資質を持つ魔導師は純粋な魔力攻撃は不得意になる傾向があるようだ。 フェイトは魔力を電気に変換する資質を持っている。 【人物背景】 ジュエルシードの探索を続けていたなのはの前に現れた魔導師の少女、9歳相当。 「魔法少女リリカルなのは」のもう一人のヒロイン。 長い金髪をツーテールにまとめているのが印象的。 また、バリアジャケットはもとより、普段着も黒を基調としていることが多い。 母親のプレシアに言われるままにジュエルシードを集めるために地球へ現れる。 同じくジュエルシードを集めていた高町なのはとは幾度も戦いを繰り返した。 その正体は、母であるプレシア・テスタロッサが娘のアリシア・テスタロッサを失った哀しみから創りだしたクローン。 記憶も転写されており、アリシアそのものとなるはずが、実際は利き腕も魔導師としての資質も人格も異なっている。 そのため、プレシアからは失敗作と心中で憎まれている。 高町なのはとの戦闘を重ねて、意識していなかった記憶の曖昧な部分となのはの真摯な想いで動揺が積み重ねっている。 一期9話後からの参戦。 【方針】 聖杯戦争を優勝する。 BACK NEXT -016 シルクちゃん&ランサー 投下順 -014 江ノ島盾子&ランサー -016 シルクちゃん&ランサー 時系列順 -014 江ノ島盾子&ランサー BACK 登場キャラ NEXT Happy Birthday! フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ) 000 前夜祭 018 ふ・れ・ん・ど・し・た・い
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3287.html
マクロスなのは 『プロローグ』←この前の話 第1話 『フォールド事故 たどり着いたのは魔法の世界』 キャンパスに戻ると待っていたのは、最近彼女ができたという2つ年下のルカ・アンジェローニだった。 「またカタパルトの無断使用ですか?先生に怒られるのは先輩だけじゃないんです。もう少し気をつけてくださいよ」 彼はミシェル亡き今、アルトに注意できる唯一のチーム構成員となっていた。 しかしアルトは約束を守らない悪ガキのような笑みを浮かべると 「あぁ、すまんな」 と答え、奥のロッカーへと向かっていく。 ルカは 「ミシェル先輩がいればな・・・・・・」 と小さく呟くが、結局どうにもならないと結論づけたのか、 「ああ、もう!アルト先輩待ってくださいよ~!」 と呼び掛けつつ彼の後を追った。 そんな彼らは3時間後、〝機上〟の人となっていた。 乗っているのはさっきのEXギアとは出力が1万倍以上も違う人型可変戦闘機VF-25Fメサイアバルキリーだ。 今バルキリーにはFASTパック(人型可変戦闘機用の拡張装備。追加ブースターや追加武装、燃料タンクなどで構成される。「スーパーパック」とも呼ばれる)とフロンティアの大企業『L.A.I社』の開発したスーパーフォールドブースターが装備されていた。 しかし何よりサブシート(後部座席)には、無骨な戦闘機にはあまり似つかわしくない、力を入れれば簡単に折れてしまいそうな体格をした少女が乗り込んでいた。 彼女は現在相方のシェリル・ノームと『娘(ニャン)フロ』というデュエットを組んで人気爆発中の時の人、ランカ・リーだ。 今彼女とアルトは、地球のマクロスシティで行われる第一次星間戦争終結50周年コンサートで歌うためにそこへ向かおうとする最中であった。 しかしなぜわざわざ軍用機であるVF-25で行くのだろうか? 無論それには理由がある。実はランカのコンサートの登場時に、かつてガリア4行われた暴徒鎮圧を、演出として再現するのだ。そのためバルキリーのパイロン(翼下に懸架型装備を装着するためのステーション)にはあの時と同様、合計4個の大型フォールドスピーカーが装備されている。 またアルト機の他にも、ランカの登場演出の直後にフロンティア船団へのバジュラの襲撃と相方のシェリルの登場を演出するために彼女を乗せたマクロスクォーター。そしてクラン大尉指揮するピクシー小隊など 多数のSMSの機体が護衛している。しかし特筆すべきはバジュラ達も演出兼護衛としてこれに参加していることだった。 (*) アルトは機体に乗ってからめっきり静かになった友人に、声を掛けることにした。 「どうしたんだランカ?肩が固くなってるみたいだが・・・・・・まさか今頃緊張か?」 その問いに彼女はバックミラーの中で首を振った。 「ううん。ただ、みんなと飛んでるとあの時のことを思い出しちゃって・・・・・・」 ランカは右側を並進するルカのRVF-25と、その隣の成虫バジュラ(赤い大きなバジュラのこと)を順番に眺めると続けた。 「・・・・・・みんな私のこと誉めてくれるけど、私、そんなすごいことしたのかなぁ、って―――――」 「大丈夫だ。おまえはそれだけのことをしたんだ。誇っていいぞ」 はっきり言ってやると、彼女の顔がみるみる笑顔に変わっていく。そして 「うん!ありがとう。アルトくん!」 と、元気いっぱいに礼を言った。 しかし更に話を続けようとした時、マクロスクォーターのオペレーター、キャシーことキャサリン・グラス中尉から通信が入った。 回線を開くと、まもなく惑星フロンティアの重力圏を抜けフォールド予定宙域に到達する。とのことだった。 「スカル〝2〟、了解」 応えると同時に、目の前の多目的ディスプレイにもう1つ通信ウインドウが開いた。 画面に映った人物は〝ふぁり〟と、貫禄たっぷりに美しいストロベリーブロンドの髪をかき揚げて、言い放った。 『アルト、しっかり付いてきなさいよ!』 銀河の妖精ことシェリル・ノームの激励を受け、アイツは変わらないな。と思いつつ「りょうかい!」と、多少くだけた返事を返した。続いて後ろに呼び掛ける。 「ランカ、もうすぐ地球までの超長距離スーパーフォールド(フォールドを阻害する次元断層というものを無視したフォールド航法)に入るから、安全のため簡易コールドスリープ(人体を低温状態に保ち、目的地に着くまで眠ってもらう技術)に入ってもらうが、大丈夫か?」 「うん!」 思いの外元気な声が返ってくることに安心したアルトは、彼女の宇宙服にアクセス。そして後部座席のベルトの固定を画面で再確認すると、宇宙服の設定をコールドスリープへと変更した。 「おやすみ」 呼びかけにはもう応答はなかった。彼は気を取り直すと、スーパーフォールドブースターの電源を入れて、そのシステムを活性化させた。 眼前に迫る七色に光り輝くフォールドゲート。マクロスクォーターを始めとする僚機が突入していく中、ランカとアルトを乗せたバルキリーもためらうことなく突入して行った。 (*) ミッドチルダ そこは魔法文明の発達した国だ。しかしその街はそうとは思えないほど機能美にあふれ、まるで近未来都市を連想させる建物で埋めつくされている。 ―――――(補足) しかしここは〝我々〟の知る時空のミッドチルダとは違うものだ。 いつから異なる過程に進んでしまったのか、それとも元々違ったのか、それは分からない。だが〝伝説の3提督〟や〝最高評議会〟など存在しないし、組織や魔法のシステムの構成も少し異なっている。また、そこに住む人の性格も多少異なっているかもしれない。 しかしこの時空にも「時空管理局」は確かに存在するし、業務も〝我々〟の知るものに近い。 以後この事を記述するつもりはないが、あきらめずに読んでいくことができれば、いつか必ずこの疑問が解決される日が来る。とだけ言っておこう。 ―――――(補足終わり) そのミッドチルダの首都である『クラナガン』の中央。〝時空管理局〟と呼ばれる国営組織の入っている超高層ビルの周囲ではデモが起こっていた。方やデモ隊である時空管理局の地上部隊所属の隊員(陸士と空戦魔導士)。 方やデモ反対の地上部隊隊員と軽装備治安維持部隊(実状は日本の警察に近い)である治安隊。 デモの理由は本局の人材確保と予算配分。そしてそれに対する政府の対応だった。 本局は次元の海と呼ばれるさまざまな世界が偏在する次元宇宙の秩序を守るため次元航行部隊(護衛艦隊と機動課)を有し、維持費などで自然と大量の予算が必要になる。そして起こり得る様々な事態に対応するため人材も良いものを集めている。 しかし、地上部隊は弓状列島の国であるミッドチルダ本土を守るために作られた軍組織で、規模も本局の4分の1程しかない。そのため地上部隊の予算は議会によって概算要求からガリガリ削られ、毎年成績の優秀な学生達も本局に狩られていき、相対的に質が低下していた。 地上部隊としても、限られた予算では人件費すら削減するしかないため、地上部隊配属者はひもじい生活を強いられている。 この傾向は特に、非キャリア組(リンカーコア<魔力資質>が、クラスA未満からそれを待たない非魔力資質保有者を指す代名詞)の多い陸士部隊に顕著だ。陸士部隊は重労働で知られるが、有事や災害救助などで管理局の庇護の下にあるミッドチルダ国民を第一に守る、直接的で大切な役職だ。 しかし給与水準はミッドチルダの平均所得より少なく『本当にここは公務員か!?』という見出しが新聞、雑誌に載ってしまうところまで来ていた。 そんな地上部隊に世論は同情の声を投げかけ、ミッドチルダの企業団が自分達のイメージアップを狙って出資を申し出てきた。 それは管理局の老朽化した施設の改修や新設などに民間の介入を許すことを条件に、仕事の増大によって非魔力資質保有者の雇用増大にも役立つという魅力的なプランだった。 だが政府は軍事費の増大による各世界の批判、何より100年前の大戦争の教訓である軍事費増大による軍部の拡大と暴走を恐れており、それを退けた。 そのプランの却下によって最後の希望を絶たれた地上部隊の一部は遂に頭に血が登り、最終手段であるデモを全国一斉に展開。 クラナガンに駐屯する部隊はそのまま時空管理局本部ビルに殴り込み(デモ行進)を開始し、今に至るのだ。 現在、クラナガンに駐屯する地上部隊の5割がデモに参加しており、その怒りがうかがい知れる。 非常線はデモ隊が占拠する時空管理局本部ビルの周囲に張られている。なぜ国会など他の行政府機関でないかと言えば、地上部隊と本局、そして治安隊のトップが政府の首相を相手取りこのビルで最後の説得を試みているからだった。 予想ではさすがにあのプランまでは無理かも知れないが、ここまでやってしまった以上少しでも譲歩しなければ地上部隊を解体せねば事態を収拾出来ない。そのため、予算配分を何とかするなど少なくとも譲歩には持ち込めるだろうという見通しではあった。 だが時空管理局本部ビルでは、もしものデモ隊の暴動に備え魔導士ランク(最低のCランクから始まり、Sランク+αを最上位とするもので、その者の能力をリンカーコアのクラス、戦闘技術などで総合的にランクづけしたもの。)がオーバーSの魔導士3人の非殺傷設定による砲撃で強制鎮圧する用意があった。 (*) 時空管理局本部ビル内部 「ああ、ウチの力が足りんかったばっかりに・・・・・・」 呼び出されたオーバーSランク魔導士の1人、時空管理局地上部隊所属の八神はやて二等陸佐は下界で睨み合うデモ隊と防衛隊とを見て頭を抱えていた。 そんな自分を見かねてか、1人の金髪の友人が肩に手を乗せて言い聞かせるように言う。 「はやてのせいじゃないよ。はやては頑張ってあのプランを実現可能って所まで持って行ったんだから」 と、本局機動課(ロストロギアと呼ばれる今では失われた技術で製造された物品があり、次元世界にあるそれを探索・封印することを主任務にする部隊)所属のフェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウン執務官(一等海尉)。 確かに自分は1年前、地上部隊の資金問題について考え、ある案を思い付いた。 それから聖王教会のカリムを始め様々な知り合いを通じた幅広い人脈をフルに駆使して主な企業が名を連ねる企業団に時空管理局を企業のイメージアップ戦略の道具や商品とするプレゼンテーションを展開するように時空管理局内に波を起こしたのだ。 そうした行動と様々な人の手を借りて企業団側のOKを取り付けた。そんな八神印の乾坤一擲のプランだった。 (でも結局―――――) 「そうだよ!それにはやてちゃんの所属する部隊は参加してないんだから」 負の連鎖に入りかけた自分をフェイトに同調する事で止めたのは地上部隊所属の空戦魔導士、高町なのは一等空尉。 確かに自分の所属する第108陸士部隊、そして彼女が所属する第4空戦魔導士教導隊は説得で事なきを得ていた。(ちなみにこの3人は、士官である以上にオーバーSランクという超キャリア組であるためそれなりの高給取りだ。) しかし、この3人の内自分を含めて2人は地上部隊の中にあって、彼らの鎮圧のために来ていた。 「できればだれも吹き飛ばしとうないんやけどなぁ・・・・・・」 そう呟く。 政府が悪いなら簡単だった。次の選挙で変えればよい。 しかし現実では自分達も政府も悪いわけではなかった。 政府は世論にも負けず信念を持って軍事費の増大を拒んでいる。 それは100年前の大戦争の教訓。一度タガが外れれば軍部を制御出来なくなるかも知れない。 彼らはそれを十二分に恐れていた。 また、今の首相が問題だった。 問題がある訳ではない。つまり、問題がないことが問題なのだ。 彼は外交手腕に秀で、人を惹き付けるカリスマを持ち、尊い大切な信念を世論の逆風があろうと貫き続ける人物であった。このような人物は今では稀有であり、加えて今まで他の政策では文句の出ないような功績を残しており、正に首相たる適格者であった。 彼を首相から降ろすなど、この立場になろうと少なくとも自分には考えられなかった。 またそれゆえに、目の前の友人2人やデモ隊は譲歩するだろうと楽観視しているようだが、彼が信念を曲げてまで譲歩するとは思えなかった。 しかしそれと同時に、なぜあの彼がここまで事態を悪くしたのだろうと疑問を持っていた。 彼は議会で「軍事費のGNP10%枠は堅持する。そして本局の予算は絶対に削らせない!」と答弁していた。だがこのまま本局の予算を削るなどの譲歩もしないようだと地上部隊は黙っていない。長期のストライキに突入したり、地上部隊を辞める人が大量に出るのは必至だった。 (ミッドチルダには地上部隊が必要な筈なのに、どうしてこんなことを・・・・・・?) 彼の実力を認めているからこそ発生する言い知れぬ不安。 いつの間にか目頭を挟むようにしていた指先を退け、目の前の扉を仰ぎ見る。そこは先ほどから説得が行われている会議室だ。 彼女は最早祈りに似た気持ちで彼が考えを変えることを願った。 するとちょうど会議が終わったようだ。扉が開く。そして地上部隊で最高位の武官であるレジアス・ゲイズ中将が書類を手に近づいてきた。 それに反射的に立ち上がると、彼に詰め寄る。 「レジアス中将、結果は!?」 「・・・・・・残念ながら会議で、君のプランを改めて却下。譲歩すらしないことが決定された」 その一言に3人の顔が青ざめる。 「本当に・・・・・・すまなく思う・・・・・・」 彼は3人に深々と頭をさげると、紙を渡した。そこにはこう書かれていた。 特別命令書 発、時空管理局局長 浜本健二 宛、地上部隊 八神はやて二等陸佐 同 高町なのは一等空尉 本局 機動課 フェイト・T・ハラオウン一等海尉 上記3名は可及的速やかにデモ隊を説得、もしくは実力で鎮圧して解散させよ。 また鎮圧のため、魔力の限定解除、ならびに使用の全制限を解除する。 以上。 心臓が止まるかと思った。 首相であり時空管理局局長(2つの役職は自動的に兼任する)である彼はやはり本気だった。 非殺傷設定とはいえ、自分達のようなクラスSのリンカーコアを持つ者の本気の魔力砲撃は当たれば打ち身程度では済まない。長時間照射されれば深刻な魔力火傷の症状が出て最悪死に至る。 だが、逆に威力を抑えた砲撃をすると今度は彼らが展開するであろう魔力障壁(シールド)を破る事が出来ない。 その場合周囲が民家のため、明日の新聞に『跳ね返った砲撃が民家を直撃!』という見出しが載ることになるだろう。 つまり、撃つなら全力でなければならないのだ。 でも問題はそこではない。 (どうしてこれほど徹底的に地上部隊を怒らせようと・・・・・・?) どうやら顔に出てしまったようだ。自分の疑問にレジアスが心を読むように答える。 「浜本首相は以前から秘密裏に地上部隊不要論を暖めてきたらしい。このデモすら、正に地上部隊解体のデモンストレーションとする腹積もりのようだ」 地上部隊不要論とは、軍事的要素が強くそれなりの多額の金を要する地上部隊を解体し、軽装備の治安隊を強化してミッドチルダの警察組織の一本化を図ろうという考えである。 しかしそれでは次元宇宙で暗躍する次元海賊をはじめとした敵対組織が、ミッドチルダに攻撃してきたとき対応出来ないという理由でさして広まってはいない考えだが、次元宇宙で活躍する本局をその分強化するのなら話は別になる。 「策士だな」 レジアスはそう吐き捨てる。 今デモに参加している者達は時空管理局局員という公務員である。そして今は午後2時。通常勤務の時間帯である。つまりこれはストライキ、労働争議とも呼べる行為であり、公務員のそれを禁止した法律が存在するためもちろん違法だ。 彼らは帰れば等しく懲戒免職の4文字あるのみ。 となれば大人しく彼らが帰るはずがなく、まず間違いなく暴徒化する。 その模様をマスコミが報道すれば世論も同情から「やはり軍隊は危険だ!」と恐怖に変り、結果として不要論に傾く。 デモ隊は「自分達は必要とされている」「まさか政府が辞めさせるわけない」と思い込んでいたため、このような強行手段を取った。 普通なら地上部隊をわざわざ解体させるリスクを負いたくないと地上部隊不要論を捨てるが、あの首相は覚悟とその権限を持ち、事実世論を味方につけるためこの芝居をうったのだ。 彼はこの交渉で譲歩するつもりなどまるでなく、最初から地上部隊を潰すつもりだったのだ。 はやては彼の策略に戦慄するが、正式な命令書があるからには私情を捨て、自分達は従わなければならない。 ずっと命令書を凝視するようにしていたためか、こちらの様子を伺う様にしていたなのはとフェイトに決意を示すようにアイコンタクトするとレジアスに敬礼し 「了解。八神はやて二佐以下2名、これより任務に入ります」 と告げた。 レジアスはもう一度憔悴した顔で 「すまない・・・・・・」 と深く頭を下げ、会議室に戻って行った。 それから彼女らは外に出るまで一口も口を聞けなかった。 シレンヤ氏 第1話その2へ
https://w.atwiki.jp/tmnanoha/pages/120.html
それは新暦67年――本来の正史ならば、高町なのはが異世界にて襲撃に遭い、瀕死の重傷を負う少し前のことだった。 とある衝撃が管理局全体に走った。 「――なのはが、消息不明……?」 今正に執務官試験のため、勉学に励んでいるフェイト・T・ハラオウンが、その情報を聞き、驚愕に満ちた瞳でそう言った。 鎮痛な面持ちで語るのは彼女の幼なじみ、ユーノ・スクライアと八神はやてだった。 「……うん。あるロストロギア……〝オーバードーズ〟っていう代物を追っかけている最中だったんだけど……」 「一週間も前から音沙汰無いんや。普段ならまめに連絡は入れるなのはちゃんなんやけど……今はまるで連絡が付かない。任務難易度を考慮しても、これは――ちょっと考えられへん」 それはあまりにも衝撃的なニュースだった。 幼いながらも確固とした意志と信念、そして魔導師ランクAAAの実力を持つ高町なのはが異世界――それも管理外世界で――完全に消息不明というのだ。 フェイトは一目見ただけでも分かるくらいに動揺していた。 「なのはに何かあったってこと? でも、まさか、そんな、なのはに限って……」 〝オーバードーズ〟というロストロギアは聞いたことがある。形状は懐中時計。効果は〝時を加速させる〟こと。 こう表現すると大層な代物に思えるが、実のところ動作は不安定で極小。使用魔力に対する効果があまりにも低すぎるのだ。 対象も個人のみに留まり、特に災害を撒き散らすものではなく、今まで軽犯罪に使用された程度だ。おまけとばかりに使用回数は対象者一人につき一回のみ。 しかし、ただ放っておくにしては、〝時間〟を操るという効果は物騒すぎる。 だが所詮、あくまでその程度のもの。なのはの事実上初任務だったジュエルシードの封印の方が、よほど物騒で危険度は高い。 なのはほどの魔導師ともなれば、単独任務だとしても難しいものではないはずだ。 そうフェイトは言おうとしたが、それを予測したように、はやては首を振った。 「……確かになのはちゃんやったら、それほど難しい任務やない。そやけど、場所が問題なんや。なのはちゃんが向かったと推測される場所に――極微少ながら、街全体を魔力が覆い尽くしている。場所を特定して観測しないと、まず発見できなかったことや」 事前に発見できなかったことが何より悔しいとはやては零した。 ユーノがそれを引き継ぐように、言葉を紡ぐ。 「あの街で何かが起きているのは、まず間違いないというのが現在の本局の判断だ。恐らくなのはが消息不明なのも、それが原因だと思う」 「――その、街の名は?」 フェイトは固唾を呑みながら、やっとのことでその疑問を絞り出した。 はやては無言で、携帯機を取り出し、その街の俯瞰図をスクリーンに投影する。 見る限り、地球のどこでもあるような街だ。特に変なところは見られない。 ユーノは口にする。唇が動き、音が大気を振るわせ、フェイトの耳を打つ。 ――――三咲町。 それが、此度の戦場の名だった。 ■ ――時は一週間前に遡る。 なのははぷらぷらと――あまりの暑さにうだりながら、三咲町を歩いていた。 周りは蜃気楼のように歪み、空気はまるでタールのように肺にへばり付く。 「暑い……」 思わず呟く。任務とはいえ、この暑さは若干11歳の体には厳しすぎた。 どこかで涼もうか、とも思うのだが、件のロストロギアの反応は近い。喫茶店で無駄な時間を過ごすより、とっとと任務を終わらせた方が建設的だ。 ぱたぱたと手で仰ぎながら、それにしても、と思う。 ……あまりにも、人が居ない気が、する。 大通りに人の姿はなく、いつもは温暖化に貢献している車も一台も走っていない。 いや、人が居ないというのは錯覚に過ぎない。少し意識を傾ければ、喫茶店やデパートには人の影が見える。だからこれは高町なのはの一時の感覚なのだろう。 そう結論付けたが、それでも、となのはは思った。 日中だというのに人影は無し。道路には車の影すらなく。街は廃墟のように静か。深海に沈んだ古代都市。これでは、まるで。 「まるで、水槽の中の――」 「魚みたい?」 は、となのはは振り向く。そこにはゆらゆらと揺れる陽炎があるのみで、誰もいない。 ……暑さでやられてるのかな。 幻聴を振り払うように、なのはは頭を振った。 いけない。今は任務中だぞ。しっかりしろ、私。 自らを叱咤しながら、なのはは歩みを再開した。 少し歩いた後、待機モードのレイジングハートから、目標が近いことを知らされる。この路地を曲がった奥。昼でもなお暗い、闇の底にそれはある―― 「あった」 涼しげな暗がりを進んだ先、ゴミと埃に埋もれた壊れた懐中時計がそこにあった。 良かった。これで任務は完了だ。さぁ帰ったら何をしようか。まずはお風呂に入るのが先かな。こんなにも暑いから汗が酷い。それから、どうしよう。フェイトちゃんとアイスでも食べて涼もうか―――― そう、うきうきしながら少し先の未来に思いを馳せていた時だった。 ――――ぐるり、と世界が反転した。 「え」 ご、と派手に頭を打った音を聞いたとき、なのはは初めて自分が地面に倒れ込んでいるということを認識した。 困惑する。 平衡感覚が無くなり、全身から力が抜けていく。なのはにとって、全く未知の感覚だった。 レイジングハートが何か騒いでいるようだったが、全く耳に入ってこない。どうしたことだろうか。耳鳴りが酷くて、何も聞こえない。 辛うじて手を動かす。視界に入った掌には。 べっとりと、赤い赤い――血が。 「何、コレ……?」 ナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレ――――! 意識が反転する。手足が痺れて動かない。あまりの事態に脳が許容量を超え、フラッシュバックを繰り返す。 どろりと地面に血が流れた。そのことを理解した途端、胸に大きな穴が空いているということに漸く気がついた。 あまりの喪失感に全身の毛穴が開いた。ぞわりと背中にムカデが這い上がってくる感覚。全身が冷や水をかけられたように戦慄する。 ぽっかりと空いた胸の空洞。あって当たり前のモノがなくなった喪失感。 あまりに絶望的な事柄が思考の中に浮かび上がる。 ――心臓が、無い。 「――――」 理性ではなく本能で理解した。これは――この感覚は―― 死。 涙が溢れる。絶対的恐怖に顔がぐしゃぐしゃに潰れ、止めどなく涙があふれ出てくる。 ――嫌だ。嫌だよ。私、何にもしてない。こんなところで、死んじゃうなんて…… 救いを求めるように手を伸ばす。最後の力を振り絞って、何とか前に進もうと―― その時。三日月のように張り裂けた笑顔が―――― ――――暗転。 時空管理局所属嘱託魔導師。高町なのは。 ……任務中に赴いた三咲町にて、死亡。 かちりと。 時計の針が動き始めた。 ■ 構築される幻影の夏の中、血を巡る物語は、魔導師・高町なのはの死から始まる―――― 「私の目的は吸血鬼化の治療。そのためにどうしても真祖の協力を仰ぎたい。……吸血鬼に侵された人間の末路は死です。アナタになら、私の気持ちは分かるはずです。――アナタは以前、目の前で吸血鬼となってしまった友人をその手に掛けたのですから」 ――――シオン・エルトナム・アトラシア 「君の研究が叶うのなら――きっと少しは彼女も報われるから」 ――――遠野志貴 「アナタが何者か知りません。ですが、私は私のやるべきことをやるだけです。……神よ。この哀れで幼き魂に救いを。Amen」 ――――シエル 「ふぅん。魔導師? 魔術師じゃなくて? ま、私にとっては何でもいいんだけどさ。――邪魔するなら、ぶち殺すだけだし」 ――――アルクェイド・ブリュンスタッド 「……管理局だか何だか知りませんが、そのように胡散臭い格好をしている人間を、放ってはおけません。遠野の当主として、私はこの街を守る義務があります」 ――――遠野秋葉 「お気になさらないで下さい。秋葉様は只今気が立っていらっしゃるだけなので」 ――――翡翠 「そうですよ~。秋葉様はあくまで志貴様が心配なだけですよ? 決してこんな小さな子が自分より胸が大きいなんてくだらない理由で苛ついてるなんてことは無いですよ?」 「琥珀っっ!!」 「???」 ――――琥珀 「さぁ、生を謳歌しろ」 ――――ネロ・カオス 「是非はない。この身は殺人のみを意義とする。俺の目の前に立ったこと。 ――それこそがお前の終焉に他ならないんだよ。行くぞ――その魂、極彩と散れ」 ――――七夜志貴 「え、と……なのはちゃん、だっけ? 私と一緒に行く?」 ――――弓塚さつき そして介入する時空管理局。幻影の夏に立ち向かうは三人の魔導師。 「――それでも、私は……っ! なのはの友達なんだからぁっ!」 ――――フェイト・T・ハラオウン 「代行者だかなんだか知らないけど――なのはは、僕が守ってみせる」 ――――ユーノ・スクライア 「は、笑わせるんやないで。こちとら広域魔法Sランクの意地がある。受けてみるか? ――私の意地を」 ――――八神はやて 「はいです!」 ――――リィンフォースⅡ 崩壊した運命は留まることを知らず。捻れに捻れた因果は、更なる異端と混沌を三咲の地に招く。 「……俺は、俺の正義を行うだけだ。一を切り捨て、九を救う。そのために、俺は……っ!」 ――――衛宮士郎 「やっと見つけたわよ、衛宮士郎。アナタには此処で死んで貰う……!!」 ――――遠坂凛 「私は、いつだって――シロウの味方だからね」 ――――イリヤスフィール・フォン・アインツベルン 「……」 ――――セイバー 噂は明確な悪夢となり顕現する。たった一人の魔法少女が思い描いた悪夢。本来ならば有り得ない存在が、一つのタタリとして現出する。 「……本来なら顕現することは無いんだけどね。〝今の君の悪夢〟と〝人々が思い描く悪夢〟はかなりの領域で相似している。 故に私が現れたんだよ。――さぁ、お話を聞かせて貰いに行こうか。人を救うために。世界を救うために。そのためなら――〝私達〟は悪魔にもなる。そうだよね、〝私〟?」 ――――タタリ〝高町なのは〟 ぶつかり合うは人の意志。矜持と欲望。人と吸血鬼は幻影の果てに虚言を見る。 激突する魔術と魔法。空想と幻想。夢と現実。生と死。 コインのように巡る血と因果。どうしようもない現実に涙するのは誰か。 うだるような夏、少女は何を見、何を感じるのか。物語の終着点には何が待っているのか。 幸福とは何か。生とは何か。死とは何か。人間とは何か。 数々の疑問の槍に穿たれながらも、それでも人は進み行く。 それは、一体、誰の、何のために―――― ――――これは血と因果に踊らされる一人の魔法少女の物語。 リリカルなのは×メルティブラッド×Fate/staynightクロスオーバー 『B.t.B――Beyoud the Blood――』 ――ひゅう、と風が吹いた。 昼間の暑さが嘘のように引いた夜。嗤う月の下で、三人の魔導師はそれを見た。 人気が失せた公園の中心。空を仰ぎ見る――探し人、高町なのはの姿を。 一週間以上も音沙汰無く、心配していたが、漸く見つけることが出来た。三人は安心した、と一息吐いた。 しかし、安堵できたのは一瞬のことだった。 月光の下に浮かび上がった〝それ〟を視認した途端、安堵の息は驚愕の息へと変わった。 自分たちに唐突に浮かび上がった感情に、三人は困惑した。 三人の中に喜びの気持ちは何故か沸き上がらなかったのだ。その感情の正体に気がついたとき、本当の意味で息を呑んだ。 それは――歴然とした恐怖という感情。未知のモノに相対したときに自然と感じる源衝動だった。 それでも、と思い、フェイトは足を一歩前に進める。 「なの、は……」 からからに乾いた口で、漸くそれだけを紡ぎ出した。 なのはは、それに気付いたのか、気付いていないのか――顔を三人の方へと向けた。 嗤っていた。 ぞくり。 瞬間、全員が戦慄によって凍り付いた。 あまりに冷たい笑顔。全身を切り裂くような冷気が、悪夢のような笑みから放たれていた。 「ごめん。皆」 なのはは笑いながら口にする。このどうしようもない現実を。覆せない、絶対零度の真実を。 「――――私、吸血鬼になっちゃった」 つぅ、と。 なのはの頬に、血の涙が流れ落ちた。 ――――魔法少女よ。血の因果を超えろ(Beyoud the Blood)。